【ブギウギ】あの六郎の亀がまだ生きていた!旅立っていった周囲の人たちの代わりに、生き続けていくのだ

「ブギウギ」第110回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。毎朝、スズ子に元気をもらえる作品「ブギウギ」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第23週「マミーのマミーや」が放送された。

もともと史実にドラマオリジナル要素を加え、1週の中に要素を盛り込みまくった印象が残る構成が多い気がするが、この週はさらにそれを強く感じてしまった。

まず月曜放送回。羽鳥(草彅剛)がスズ子にブギの本場・アメリカでの4カ月にわたるツアーを持ちかけるところから始まる。ここで描かれたのは、歌手としてのスズ子と母としてのスズ子の葛藤だ。GHQの渡航許可の関係で、連れていけるのはマネージャーのタケシ(三浦獠太)のみで愛子は日本に置いていかなければならないという。歌を選ぶのか、子供を選ぶのか、葛藤するスズ子。以前も愛助か引退かの二択に悩むなど、これまで幾度も繰り返されてきた二択がここでも登場する。

羽鳥の妻・麻里(市川実和子)に「あなたは心の中では行くって決めてるのよ」と背中を押してもらうことで、渡米を決めるスズ子。母とのしばしの別れを告げられ当然大泣きする愛子に、
「マミーはな、もっともっと大きな歌手になりたいねん」
と説く。

愛子に自分の思いを告げ、号泣する娘を振り切り辛い思いを抱え強い決意でアメリカに向かうスズ子。ショービジネスの魅力とプロとしての誇りなどを描いた場面で、同じ母親として麻里の応援を盛り込むのは狡さも感じる構成だ。

しかし、翌日にはアメリカでの4カ月の「武者修行」があっさり終了。アメリカでの描写は滞在先の部屋とバルコニーだけ。

アメリカ編ということで、もしかしたら米兵のサムとともにアメリカに渡っていった小夜ちゃん(富田望生)とばったり遭遇したり、案内してくれたりといったドラマチックな再会などあったりするかなと期待したりもしたが、「アメリカか……小夜ちゃん元気にやっとるやろか」みたいに思い出されることもまったくなく帰国してしまったのも肩透かしだった。

水曜日。冒頭に帰国し、すっかりスズ子のいない生活に慣れ、新居で生活する愛子と再開。そして、届いた電報で育ての父・梅吉(柳葉敏郎)の危篤が告げられる。スズ子と愛子、香川へ。怒涛の展開というよりも不思議なことに全体的にダイジェスト感が漂う週だ。5本ぶんあるのに15分のまとめ放送を見ているようなテンポ感。

週の後半で描かれたのは、おもに梅吉との別れ。よかったのは、「亀」。あの六郎の亀、まだ生きていた! 長生きする生き物が、旅立っていったさまざまな周囲の人たちの代わりにずっと生き続けていく。次の世代である愛子がその亀をかわいがるというのもいい描写だろう。亀とともに、梅吉の撮った数々の写真がみんないい笑顔で、梅吉の人柄がしのばれるところも素敵な演出だ。

「ブギウギ」第109回より(C)NHK

さて木曜日。いよいよ梅吉との別れが近づく。今際の際に、
「歌、聴かしてくれへんか」
とスズ子にお願いする梅吉。いい場面である。梅吉は、
「『父ちゃんブギ』で頼むわ」
とリクエスト。
「しらんのか」というが、「東京ブギウギ」の替え歌である。

涙ながらに「ほんま、アホや」と突っ込むスズ子だが、泣き笑いのなか親子でこの替え歌を一緒に歌う。泣かせる場面であることはわかるが、「父ちゃんブギウギ」、申し訳ないがややすべっている気がしてしまったのだが。個人的に泣けるかどうかはともかく、サブタイトルも「父ちゃんブギ」でよかったのかもしれない。

歌いながら号泣するところでブツ切り的に終わった。ところでこの週だが、愛子が梅吉の部屋に入るところで終わったり、羽鳥がウクレレをポロンとつまびく音で終わったりと、これもまた、ねらいがあるのかもしれないし、ナレーションで締める描き方をしていないこともあるのか、毎回ブツ切り的に終わるのが少し気になった。

そして金曜日。もう梅吉は死んでいた。遺影になっていて、お葬式の場面。ここで実の母・キヌ(中越典子)、再登場。これはこれまでの突然思い出されたかのように登場するかつてのキャラクターではなく、正しく再登場した感はある。

去っていくキヌを愛子に、「マミーのマミーや」と説明するスズ子。それを背中越しに聞き、一筋の涙を流すキヌ。直接のやり取りを介さずにこれまでのわだかまりをこの一言で解消させたところは美しい結末だった。

アメリカ公演、梅吉、キヌ……たくさんの要素が盛り込まれすぎて駆け足感の強かった今週。ためしに週末放送のダイジェスト版も見たが、それだけの要素があった週なのに、あまり印象は変わらなかったところが不思議な週だった。

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