【インタビュー】311「対立があるのは自然なこと。だからこそ多様性が生まれる」

パンクをベースにしながらも、レゲエやヒップホップなどさまざまな要素を取り込んだミクスチャー・サウンドのルーツ的存在であり、1990年代以降のサーフ・カルチャー/ミュージックにも影響を与えているバンド、311。先日、MAN WITH A MISSIONとのダブル・ヘッドライナーとして、実に14年ぶりとなる来日公演を成功させた彼ら。その長いブランクを感じさせないほどのエネルギッシュで濃密な空間が生まれ、ライヴ終了後には数多くの熱狂的なコメントがソーシャルメディアを賑わせた。

今後は結成35周年を控え、オリジナル・アルバムのリリースや、MAN WITH A MISSIONとの全米ツアーなど、ますます精力的な活動が期待される彼ら。来日公演の熱狂が冷めぬなか、S.A.マルチネス(Vo)とP-Nut(B)が、今後の抱負と、長年のサポートを続ける日本のファンへスペシャル・メッセージを届けてくれた。

──14年ぶりの来日公演が終了しました。

S.A.マルチネス:前回はクラブ・クアトロ、つまり、街のど真ん中にある会場で演奏して、オーディエンスは超ラウドで大騒ぎだった。今回は、会場は街の外れだったし、日本もしばらくぶりだし、正直オーディエンスはもっとおとなしくて地味なのかも?なんて思ってたんだよね。でも、全然そうじゃなかった。クアトロと同じくらい盛り上がりまくってたし、最高の時間を過ごせたよ。オーディエンスの皆も楽しんでくれていたみたいでよかった。僕たち、日本が大好きだからね。

──これまで何回日本でショーをやったんですか?

P-Nut:おそらく4回かな。昨日のショーは、まるで1990年代の観客の前で演奏しているみたいだった。僕たちに対するエナジーと愛をいまだに感じることができたし、僕たちが戻ってくるのを心待ちにしていてくれたことが伝わってきた。あと、若い時に僕たちの音楽を聴いていたけどこれまでライブを見る機会がなかった人たちも沢山いたんだ。僕たちの演奏を見て満されているような彼らの顔を見るのは、まさに至福だったね。最高だった。

──今回は、MAN WITH A MISSIONとのダブル・ヘッドライナーでした。彼らの印象は?

S.A.マルチネス:彼らのパフォーマンスは素晴らしかった。

P-Nut:素晴らしかったよ。曲もすごくよかったし。彼らのアリーナ・ショーを事前に観たけど、盛り上がりがすごかった。一緒に演奏できたなんて光栄だね。

S.A.マルチネス:その通り。次は彼らがアメリカに来て、僕たちと一緒にショーをやる予定なんだ。今回のショーもすごくうまくいったし、彼らは愛に溢れている。本当に素晴らしいバンドだよね。

──2023年は、アルバム『Music』の30周年記念盤『Music(30th Anniversary Expanded Edition)』をリリースしました。改めて、バンドの活動を振り返る時間になったのでは?

S.A.マルチネス:30年という期間には本当にたくさんのことがあった。振り返ることができるコレクションがあるというのは、クールなことだよね。バンドの歴史の中で、どの時期に何があったかを認識し、受け入れることができる。多くのことが変わったし、また同時に多くのことが変わってない。うまく表現できないけど、表裏一体みたいな感じかな。

P-Nut:エディ・オフォードは、1stと2ndアルバムのプロデューサーとして僕らに彼の力を貸してくれたという点で多くの称賛に値すると思う。僕らがロサンゼルスに引っ越したその日に、彼はパンが入った箱を持って、家の玄関で僕らを待っててくれたんだ。故郷から1000マイルも離れた場所だし、僕はまだ17歳だった。だから、彼がそうやって僕らを迎えてくれて、まるでホームにいるような気分にさせてくれたのは、すごく大きな意味があったんだ。後になって彼の経歴を掘り起こすまで、エディがどんなにレジェンド的な人物なのかを知らなかったんだけど、素晴らしい才能の持ち主が僕たちのオリジナリティを育ててくれた。彼は、僕たちを変えようとは一切しなかった。当時の僕たちは自分たちが何をやっているのか具体的に理解できていなかったけど、自分たちが正しい道を歩んでいることだけはわかっていたし、ユニークなロックバンドになるための一歩を踏み出していたと思う。それが彼を引きつけ、一緒に仕事をしたいと思ってくれたんじゃないかな。それにカプリコーン・レコードの協力が加わって、僕らにチャンスをもたらしてくれたんだ。彼らは、僕らが一生ツアーをするバンドになると言ってくれた。それを聞いて、僕たちは「やるぞ」って思えたんだよね。やがて、楽曲をラジオが気に入ってくれたり、素晴らしいファンがついてきてくれたり、良いショーをやることができたことも大きかった。そのおかげで、生き残れるって思えるからね。これが自分が得意なことで、天職なんだと思わせてくれる。だから、僕たちの中に活動を続けるスピリットを育んでくれたのは彼らでもあるんだ。だからこそ僕らはここまで来ることができたわけだし、こうやって30年を振り返ることができているんだよ。

S.A.マルチネス:エディの話に戻るけど、彼が手がけたレコードは、いまだに超新鮮に聴こえる。あのレコーディングは本当に素晴らしいからね。レコーディングの仕方って、今ではだいぶ変わっただろ?当時は全てアナログでテープに録音してた。あの頃はオートチューンもなかったし。それなのにあんなにクリアなレコーディングができたのは、歴史的だと思う。

P-Nut:(30年という長い期間活動しているから)アナログ・バンドとハイブリッド・バンドの橋渡し的バンドのひとつになれたことも幸運だった。アナログとデジタル、両方経験したことがあるというのは素晴らしいことだと思うね。

──現在は、新作アルバムを制作中とのこと。その内容は?これまでの作品との違いは?

S.A.マルチネス:デビューの頃は自分たちだけで制作していたけど、年月が経つにつれて他のライターたちをも招くようになった。それは、時間の経過と共に変化してきたことのひとつだな。僕らは常に、かなり忙しいバンドだった。ずっとツアーに出ていたし、もっと活発で、スタジオ・アルバムもバンバン作ってた。まあもしかしたら、ちょっとリリースしすぎていた時期もあるかもしれないね。だからその後、オーディエンスに自分たちが作ったものを一度消化してもらって、そのあとまた戻ってきた方がいいんじゃないかと思って、ちょっと休むことにしたんだ。それが正しい判断なのか間違った判断かわからなかったけど。そして今、再起動して新たなレコードを完成させようとしている。内容は、かなり折衷的だよ。同時に、すごくモダンでもある。力強いロックな曲もあれば、超スウィートな曲もあるし、次のレコードでは新しい音楽が楽しめると思う。僕らも興奮しているし、ファンの皆も絶対に気に入ってくれると思うね。

──また、バンドはまもなく結成35周年になりますね。

S.A.マルチネス:僕たちは家族。だから、山もあれば谷もある。家族ってそういうものだから。僕たちはオリジナル・メンバーでここまできてるけど、それを維持するのは決して容易ではないんだ。

P-Nut:続けることは難しいけど、同時にやりがいもある。まさに家族と同じで、どんな意見の相違も、どんな対立も、ただ突き放して目を背けるんじゃなくて、一緒に取り組んできた。それは、僕らがお互いを愛しているからできることなんだ。全てにおいて皆の意見が同じなことはないし、対立があるのは自然なこと。だからこそ、多様性が生まれるわけだしね。活動を続ける中で、どんな衝突があっても、議論や意見の相違があっても、それを超える愛が一番重要だということに僕たちは気付いたんだ。また、音楽がそれを証明してくれている。音楽を作る時、僕らは皆同じ気持ちになるし、新しいアイディアを思いつき、活動を続けていきたいと思える。活動していく中で変化は常に起こっているし、だからこそ衝突は起こるし、それは重要なことであり、進化と戦うのは当たり前のことなんだ。僕たちは、それを理解している。だから、考えが異なることがあっても、うまくその中間を見つけることができるんだよ。素晴らしい音楽が生まれるのは、それができた時。今のレコーディングに関して良いことのひとつは、ファイルをすぐにシェアしたりミックスの微調整ができることだね。例えば、僕の場合、家の風呂の中でベースの音を上げたり下げたりできる。恥ずかしがることなくそれをやることができるんだ。それをグループみんなで同じ部屋で聴いている状況だったら、自分のパートのことに関して発言するのは少し気が引けるかもしれない。でも今の僕たちは、携帯を使って別行動しながら制作をしているから、なんでも好きなことを言えるんだよ(笑)。それって良いことだと思う。よりクリエイティブになるためのひとつの良い方法だよ。

──今後の予定は?先ほども言っていましたが、MAN WITH A MISSIONとのUSツアーも控えています。

S.A.マルチネス:今回の来日公演は、これからの311の序章なんだ。このあとはMAN WITH A MISSIONと一緒にレッドロックのショーもあるし、すごく興奮している。しかも、日本のバンドがレッドロックでプレイするのは初らしいしね。

P-Nut:すごいことだよ。

──最後に。日本のファンへメッセージを

P-Nut:来日公演にはRIZEのベーシスト(KenKen)が来てくれていたんだけど、彼は8歳の時から僕のベースを聴いているらしく、会ったとたん泣き出したんだ。もちろんアメリカのファンにも熱い人たちはいるけど、日本人の感情の豊かさや熱さには感動させられる。彼は、僕らがどれだけ彼の人生を変えたか、311がいなかったらミュージシャンにはなっていなかっただろうと話していた。その言葉はもちろん、日本のオーディエンスからは、情熱と感謝の気持ちが溢れているのを本当に感じることができるんだ。そしてそのおかげで、自分が東京や日本の一部なんだと感じることができる。日本のリスナーは、音楽からしっかりと何かを感じ取ってくれているんだよね。その後届いた、KenKenファンからのコメントも読ませてもらってるけど、日本は本当に愛でいっぱいの場所だと思う。すべての人がここに来て、それを感じたほうがいいと思うね。僕たちは日本に来るたびに、それに感謝しているんだ。

S.A.マルチネス:日本は素晴らしい文化が根付いていると思う。僕らは世界を旅しているから、お気に入りの場所はどこかと聞かれることも多い。僕にとって、日本はその答えのひとつなんだ。とにかく文化が豊かだし、何度来ても常に新しい発見があるからね。毎回来るたびに、その断片を知ることができるのは本当に素晴らしい。日本のファンのみんな、本当にありがとう。

取材・文◎松永尚久
通訳◎Miho Haraguchi

311『Voyager』
2019年7月12日発売
http://smarturl.it/311Voyager

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