「聴導犬」合格目指す6歳のエマ 52歳女性の耳代わり「人生を変えてくれる存在」

訓練を重ねているエマ

 聴覚障害者に音を伝える聴導犬。3月の認定試験で合格すれば県内4匹目の聴導犬になるエマが、聴覚障害者の辻田裕子さん(52)=大津市柳川2丁目=と共に訓練に取り組んでいる。辻田さんは「エマはこれからの人生を変えてくれる存在」と期待する。

 生まれつき聴覚障害がある辻田さんは、耳の代わりを果たしてくれていた息子が大学へ進学したことをきっかけに昨年6月、聴覚障害者就労施設「びわこみみの里」に聴導犬の利用を申し込んだ。

 昨年8月から、聴導犬と介助犬を育成する一般社団法人「ドッグフォーライフジャパン」(松山市)が育てたエマと、約半年間の訓練を積んでいる。

 エマは雑種で6歳の雌。インターホンや火災報知機、タイマー、目覚まし時計の音を聞き分け、音を聞くと、前足で辻田さんの体を触って知らせ、その場所に誘導する。

 辻田さんはこれまで、来客のある日は約束の時間にインターホンの前で待機していた。相手が遅れて時間を過ぎても、いつインターホンが映しだされるのかが不安でトイレにも行けなかった。

 大津市の小鳩乳児院に勤務する辻田さんは、職場の困り事もエマが同伴してくれることで状況が変わりつつあるという。例えば避難訓練では、これまでなら他の職員と一緒に避難していたが、エマがいれば自力で避難できる。障害ゆえに周囲とのコミュニケーションに難しさを感じていたが、エマがいることで、職員や子どもとの交流が始まった。

 辻田さんは「補助犬の役割を広く知ってもらい、エマと一緒に買い出しや旅行に挑戦したい」と将来を見据える。

 聴導犬に関する相談は県障害福祉課077(528)3541。

ペットと間違われ同伴拒否されるケースも

 聴導犬や盲導犬などの補助犬は今も、法律を知らないことや前例がないことを理由に、飲食店や病院で同伴を拒否されるケースが多い。

 身体障害者補助犬法は、公共施設や交通機関、ホテルやレストランといった不特定多数の人が利用する施設で、原則、受け入れ拒否を認めていない。

 ドッグフォーライフジャパンの砂田眞希代表理事は、同伴を拒否する施設があれば、耳が不自由であることを本人に代わって説明するといった周りの支援が大切とし、「『私の隣にどうぞ』と聴導犬を連れた人に誰かが声をかける社会であってほしい」と話す。

 さらに聴導犬は小型犬が多く、ペットに間違われやすいという事情もある。盲導犬や介助犬は人を引っ張る必要があり、大半が大型犬であるのに対し、聴導犬は音源まで誘導する仕事のため、住居の都合などで小型犬が選ばれることも多いからだ。

 聴覚障害者特有の困難も。新型コロナウイルス禍でマスク着用が奨励されてからは、相手の唇の動きから話の内容を読み取る「読話」がマスクでできなくなり、意思疎通が難しくなった。砂田さんは「聴覚障害は見た目で障害の有無が伝わらず、トラブルに遭いやすい」と指摘する。聴導犬がいれば、周りが障害に気づき、手助けをしやすくなるという。

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