●53日ぶり、能美から
能登半島地震でインフラが寸断されて孤立し、1月中旬に能美市へ集団避難した輪島市鵜入(うにゅう)町の6世帯10人が11日、一斉に帰郷した。道路状況の改善や電気の復旧を受け、53日ぶりにふるさとへ戻った。住民は潮風を浴びたり、穏やかな海を眺めたりし「やっぱり地元は落ち着く」と涙。住み慣れた地域で、元の日常を取り戻そうと一歩を踏み出した。(社会部・山科耀)
●到着してすぐ海へ
鵜入町の住民を乗せたバスは11日午前9時ごろ、避難先の能美市辰口福祉会館を出発し、午後1時すぎ、鵜入漁港に到着した。「海が恋しくて恋しくて」。建築業の堂前三郎さん(75)はこう話すと、到着後間もなく、モリを手に海でナマコを採り始めた。
坂下まさ子さん(81)は、被災した家屋を修理するため自宅に残った長男の充さん(58)と再会した。「感激でいっぱい」。それ以上の言葉は出てこず、代わりに涙があふれた。元気そうな母らを見た充さんは「にぎわいが戻ってきた気がする」とにこり。ずっと静かだった集落に久々に笑い声が響いた。
●感謝伝えきれず
一方で、区長の濵野勝己さん(71)には心残りがあった。「能美では毎日のように温泉に入ったり、散歩を楽しんだりできた。本当にお世話になったのに、全員にお礼を言えなかった」。支援に当たってくれた能美市職員やボランティアの中には感謝を伝えられなかった人もいたという。
しかし、迷いを振り切るように濵野さんは続けた。「落ち着いたら能美市を訪ねたい。それまでは自宅の片付けに専念する」。まずは輪島での生活を立て直すことが能美の人たちへの恩返しになるはずだ。