「単なる場所ではない」避難指示解除されない区域、13年経った今も…帰還困難区域の住民たち 福島

東日本大震災から14年目に入った今でも、福島県内には避難指示が解除されない地域が残っています。政府は、避難区域を再編する方針を示す一方で、住民は全面的な除染を訴え続けています。

3月11日の仙台高裁前。浪江町津島地区の住民たちが集まりました。

原告・佐々木茂さん「私たちは長年住み慣れたふるさとから、放射能という目に見えない毒によって追われてしまいました」

大部分が帰還困難区域となっている津島地区。住民およそ630人が、ふるさとの原状回復を求め、国と東京電力を訴えています。先頭に立って、行進する今野秀則さん(76)。原告団長を務める一方で、いま、大きな悩みに直面しています。

今野秀則さん「4月1日が期限。最終期限」

今野さんの自宅は、特定復興再生拠点の中にあり、去年3月に避難指示が解除されました。その自宅を公費で解体するための申請期限が、4月1日までとなっているのです。期限まで3週間。敷地内には、明治時代から続く旅館も含まれています。

今野秀則さん「自分が生まれ育った家だし、震災後もずっと私6人きょうだいだけど、春の彼岸、秋の彼岸、きょうだいは墓参りに来て、古い家にみんな集まっていた。それを考えると、なかなかね、簡単に壊すって言えるのかというと、なかなか言えない」

建物は「単なる場所ではない」

26年前の駅伝大会の映像では、走る子どもたちの向こうに今野さんの旅館が見えます。地区の中心部に立つ旅館は、津島の風景の一部と言ってもいい建物ですが、傷みもあり、保存には費用もかかります。

今野秀則さん「単なる場所ではなくて、自分のその精神的な部分につながる歴史だとか、伝統、文化、地域の人々との交流とか、全部そこに詰まっている」

原発事故前まであった、生活の基盤や住民の交流が戻らない現状では、さらなる負担にもなり得る住宅の保存は、容易には決められません。一方、政府は去年、新たに特定帰還居住区域を設け、帰還を希望する世帯に限って除染や解体を進める方針を示しました。

今野秀則さん「やっぱり飛び飛びですよ。この部分だけでしょ。せいぜい300メートルくらい…。まあ、点ですよね」

帰還居住区域は地区の中で点在しているため、避難指示が解除されても、生活の再建は見通せません。

今野秀則さん「どうしたらいいのかなって。子どもたちにも相談はしているんだけど、最後は自分でやっぱり決断するしかないので」

自宅が居住区域に 期待の一方で…

その一方で、ある程度、まとまって住民が帰還する集落もありました。津島地区の西の端、羽附(はつけ)集落です。避難指示が解除された川俣町・山木屋地区に隣接しています。

窪田たい子さん「3、4年は手入れしていたんだけど、もう帰ってくるたびにがっかりして。でもここに帰ってくると癒やされて。故郷っていいんだなって思っていました」

羽附集落の窪田たい子さん(68)と和男さん(72)夫妻。ふるさとへの帰還を待ちわびて、13年が経ちました。原発事故の後、手入れを続けてきた家も、傷みが目立つようになりました。同じ浪江町内で、除染が進む場所を見るたびに、複雑な思いだったといいます。

窪田たい子さん「同じ場所を何回も除染していくから、何回もやっているならば津島だって一回くらい、みんなやってもらえれば。そういう気持ちで国道を通って歩いてたの」

羽附集落は、復興拠点に含まれなかったため、長らく避難指示解除の方針が示されませんでした。震災前には32世帯が暮らしていて、大半の世帯が帰還を希望。今年1月に、特定帰還居住区域に認定されました。窪田さん夫妻もこの日、環境省に自宅の解体を申請。13年が経ってようやく、ふるさと帰還への道筋がつくようになりました。

窪田たい子さん「羽附集落も行政で除染できると聞いたときは、本当に嬉しかったです」

帰還が実現すれば、やってみたいことがあるといいます。

窪田たい子さん「すぐに営農再開はできないから、花木や花を、畑や田んぼの周りに植えて。花が植えてあれば、訪れた人にすごいな、休みたいなとか、回ってきたいなって、みんなに見てもらいたい」

ただ、13年という時間はあまりに長かったとも感じています。この家を建てた和男さんの母は、この間に体調を崩し、入院したといいます。

窪田たい子さん「帰れるなら帰ってきたいなって言っていたんですけど、今ちょっと歩けない状態だから、リハビリして良くなれば…。もともとばあちゃんは地元で生まれて地元に嫁いだから本当にここに愛着があると思う。本当に連れてきたい」

避難指示の解除に期待を寄せる住民がいる一方で、その後も、課題は残り続けることが予想されています。

節目の日、3月11日の裁判。その後の集会でも、黙とうが捧げられました。

裁判には、窪田さんも原告として参加しています。法廷で「国と東電の責任を問わずして、真の復興・再生はない」と意見を述べた今野さん。集会では、改めて、次のように訴えました。

今野秀則さん「避難を強いられて、いかに私たち住民が原発事故で苦しめられているかということを主眼に置いたつもりで訴えさせていただきました」

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