「ゴネたら何とかなる」がサントス側のスタンスか。長崎を去ったカリーレ監督を巡る問題はFIFAの裁定待ち【現地発】

2022年6月からJ2のV・ファーレン長崎を率いていたファビオ・カリーレ監督が昨年末、名門サントスの監督に就任した

ただし、「カリーレ監督と契約を延長した」と主張する長崎は、契約違反の認定と違約金支払いを求めてサントス、そしてカリーレ監督をFIFAへ提訴した。これに対し、サントス側は「昨年末でカリーレの長崎との契約は満了したと理解している」と弁明する。

複雑な問題では全くない。焦点は、長崎がカリーレとの有効な契約書をFIFAへ提示したかどうか。提示していればFIFAはサントスとカリーレ監督に違約金を支払うよう命じるだろうし、提示していなければサントスとカリーレ監督は何も問題がない。

以前、日本とブラジルのクラブの間で選手の二重契約問題が起きたことがあった。2020年、名古屋グランパスに所属していた元ブラジル代表CFジョーが、クラブの了承を得ずに帰国し、コリンチャンスが獲得を発表した一件である。

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当時も名古屋が契約違反と違約金支払いをFIFAへ訴え、コリンチャンスがCAS(スポーツ仲裁裁判所)へ控訴するなど紆余曲折を経て、2022年、FIFAがコリンチャンスに違約金支払いを命じ、コリンチャンスがこれに応じて決着した。

この問題の背景には、日本とブラジルの文化の相違も横たわる。一般的にブラジル人は法を守る意識が高くない。魑魅魍魎が跋扈するフットボールの世界ではなおさら。あるブラジル人記者は、「サントスは、FIFAの裁定が出るまでかなりの時間がかかるだろうし、ゴネたら何とかなると高を括っているのだろう」と推測する。

しかし、仮に裁定が出るまで多少の時間がかかろうと、最終的にFIFAの裁定には従わざるをえないはずで、もし従わなければ「トランスファー・バン」(新規の選手の獲得禁止)の処分を受けることになる。

長年、ブラジルに住んでいるが、この国の人々の刹那主義には、いまだに理解に苦しむことが多い。

文●沢田啓明

【著者プロフィール】
1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。

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