社説:米アカデミー賞 邦画の魅力示す「2冠」

 日本映画界に活気を与える朗報が米国から届いた。

 世界最高峰の映画賞とされる第96回米アカデミー賞で、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞、山崎貴監督の「ゴジラ―1.0(マイナスワン)」が視覚効果賞に輝いた。

 手描きの美しさを追求したアニメと、「特撮」にデジタル技術を組み合わせた怪獣映画。ともに得意の技を磨き上げ、邦画の魅力を世界に知らしめたダブル受賞の快挙を喜びたい。

 宮崎監督作品の受賞は2003年の「千と千尋の神隠し」以来、21年ぶり2度目。視覚効果賞は日本の映画では初めてとなる。

 かつてハリウッドを席巻した巨費を投じた大作とは趣が異なり、丹念に撮った手作り感が伝わってくる。

 「君たちは―」は、戦時中の日本を舞台に母を亡くした少年が、アオサギの案内で不思議な世界に迷い込む冒険ファンタジーだ。

 長編製作からの引退を撤回した宮崎監督が、7年かけて完成させた。手描きにこだわった伝統的な表現が支持された。83歳の巨匠の衰えない創作への情熱が多くの観客の心をつかんだのだろう。

 「ゴジラ―」は、怪獣映画の金字塔とされるシリーズの70周年記念作品だ。終戦直後の日本に襲来したゴジラに立ち向かう復員兵らのヒューマンドラマを描き、米国でも話題を呼んだ。

 高い評価を受けた視覚効果は、映像を加工・合成して撮影困難なシーンを再現する技術だ。豊富な資金と技術力が当たり前となっており、ハリウッド映画の独壇場とされてきた。

 だが、山崎監督は少数精鋭の専門スタッフと共に、「ハリウッド大作の10分の1」という限られた予算でゴジラが暴れ回るダイナミックな映像を作り出した。

 日本の怪獣映画を支えてきた「特撮」と呼ばれる手法に加え、最新のデジタル技術も導入して、ハリウッドにも劣らない独自の映像表現を実証してみせた。

 優れた映画は、言語や国境を超えて感動を呼ぶ。

 今回のアカデミー賞の同時受賞が、クールジャパンを代表するアニメ作品など日本発のコンテンツが国際的に広く流通する可能性を裏付け、日本映画界の進出に弾みをつけるのは間違いない。

 こまやかな感情を丁寧に描く優れた邦画の裾野をさらに広げ、宮崎監督らに続く若い才能の飛躍につなげてもらいたい。

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