社説:医師の残業規制 「特例頼み」を続けるな

 医師の働き方改革で、4月から適用される時間外労働(残業)の規制強化に伴い、地域の医療体制に影響が表れつつある。

 京都市は、休日と夜間に子どもの急患を受け入れる市急病診療所小児科の受付終了を、現行より1時間前倒しする対応を決めた。

 勤務医の確保が難しくなるためで、早めた終了時間後も電話相談に応じるとするが、子育て環境の安心に逆行するのは否めない。

 ただ、支える医師の過労は、重大なミスなど医療の質も脅かす。どう地域医療を維持し、医師の健康を守るか。医療界と国、自治体の抜本的な取り組みが急がれる。

 残業時間の上限導入を柱とする規制強化は、人手確保の厳しさから勤務医や運輸業、建設業は5年間猶予されていた。次の出勤まで原則9時間空けるインターバル規制も始まり、京都市が小児の急患対応を縮小するのもこのためだ。

 各病院で医師の負担軽減が課題となる中、京都、滋賀の救急病院では、重症患者を診る体制を確保するため、時間外診療に別途の特別料金を設けて緊急性の低い患者を絞る動きも広がっている。

 しかし、全国的に対応の遅れは否めず、4月の規制強化後も、勤務医のみ年960時間の残業上限を可能とする。労働災害認定の目安で「過労死ライン」に相当する時間だ。一般企業の最大で年720時間を大きく上回る。

 厚生労働省によると、医療機関で情報通信技術(ICT)導入や業務移管が一定進み、2019年に勤務医の約4割だった年960時間以上は、22年に半減した。それでも約2割に上る。

 特に厳しいのが高度医療を担う大学病院などだ。共同通信の調査で、京都大や京都府立医科大の付属病院など9割が「時間内に収めるのは不可能」とし、上限を2倍近い年1860時間に引き上げる特例適用を申請するとした。

 複数主治医制の導入や、勤務と自己研さんの区別徹底なども挙げる。ただ、本来は業務とすべき研さんも多いというのが現場の声だ。一昨年に神戸市の医師が過労死自殺した問題でも、遺族と医療機関の対立点になっている。

 特例も35年度までの措置とされる。どう勤務医を確保するか。根本的な医師の不足や偏在の問題解決へ実効性が問われよう。

 働き方改革による負担軽減を進めることで、現場医師の離職を防ぎ、出産などを機に離れた女性医らの復職につなげていく戦略的な取り組みも欠かせない。

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