泰然自若。横浜FCのゴールマウスを託された市川暉記の堂々とした振る舞い「どれだけゼロを増やせるかにはチャレンジしたい」

その日は、少なからず違和感を覚えていた。3月9日のJ2第3節・山形戦の試合前、横浜FCのGK市川暉記は「アップとかで、なんかちょっとフワッとしているなという感じがあった」という。

試合は2-0で勝利。開幕から2戦連続ドローの横浜FCが待望の今季初白星を掴んだ。相手にボールを持たれる時間帯は長かったが、連動性に富む組織的な守備で対抗し、大きなピンチはほぼなかった。

市川の仕事も限られた。ともすれば集中力が途切れてしまいそうな展開だったが、プレーに関与する場面では冷静に、堂々と振る舞う。安定したハイボールの処理など、危なげなくゴールを守った。

試合前の“フワッとした感じ”は気のせいだったのか。いずれにせよ、25歳の守護神が常に意識していることがある。

「落ち着きは、見せるようにしています。相手にどう見せるかっていうのは、意識しながらやっているところで。見た目や印象はやっぱり大事だと思うし、『あれ、今日はなんかおかしいぞ』みたいな感じで見られるのは良くない。そのなかで自分がどう立ち振る舞うかには取り組んでいます」

2017年に横浜FCでキャリアをスタートさせ、今季でプロ8年目。過去のシーズン最多出場数は、鳥取に期限付き移籍していた19年の10試合。実績は物足りないかもしれないが、強い気持ちでそれをカバーする。

「落ち着きのところは、必ずしも求められるところだと思う。経験がないから落ち着いていないねとかも言われたくないし」

G大阪からレンタルバックした今季は、開幕からレギュラーの座を確保。ここまでのパフォーマンスについて訊けば、「悪くはないと思いますけど、特段に良いっていうわけでもないかな」と応じる。

「めちゃくちゃ良いかと言われると、もう少し何かできるところはあると思います。ここ2試合は仕事が少なかったですけど、そのなかで自分がボールに関わらなくても、コーチングとかで関わることはできるだろうし、そういったところは課題として持っています」

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3節を終え、横浜FCは1勝2分けの負けなしで7位。失点は開幕の山口戦(1-1)の1つだけ。それも相手のシュートが味方に当たりコースが変わってゴールを割られるというアンラッキーなものだった。

実質、完璧に崩されての失点はまだない。直近2試合はクリーンシートを達成。守備面の充実ぶりが見られるなかで、ある意味、GKとしてプレッシャーもあるのではないか。「特にないですね。基本、あまり感じないタイプですし」という市川は、さらにこう続ける。

「求められるものはやっぱり、最後に優勝してJ1に戻ること。その仮定で、失点を減らしていければいい」

目の前の試合に集中するが、最大のミッションも見据え、泰然自若に戦う。「ずっとゼロでいくのは、なかなか難しいことだと思います」と現実と向き合いつつ、「どれだけゼロを増やせるかにはチャレンジしたい」と言葉に力をこめた。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部

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