現金不可のホテルも登場 群馬県内でキャッシュレス化加速 小規模店は手数料が課題

キャッシュレス化に合わせ、宿泊客が鍵を取り出す専用ボックスを設置したホテルサンダーソン

 クレジットカード、QRコードなど現金を使わないキャッシュレス決済が、群馬県内で広がっている。現金不可に切り替えた宿泊施設が登場し、大店舗を中心に消費者の利便性向上や会計業務の効率化などを目的にキャッシュレス化が加速している。一方、小規模店は集客力に比べ、手数料の影響が大きいとしてキャッシュレス推進に頭を抱える。

 ホテルサンダーソン(前橋市)は今月、宿泊客を対象にキャッシュレスのみの決済に踏み切った。これまで同決済が全体の70%以上だったため、現金管理がないことでレジ業務の負担軽減や、不正、盗難、会計時の人的ミス防止の観点から導入。作業短縮で生まれた時間をサービスや他の業務に充て、顧客満足度の向上に取り組む。

 国のIT導入補助金を活用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進。管理システムを一新した。69部屋の鍵を一つずつ収納する専用ボックスを設け、付与されたコードを宿泊客が入力して取り出す。ホテルでの支払いはスタッフの対応になるが、事前精算を推奨し、フロントの無人化にもつなげる考えだ。

 同ホテルを運営する天国社中央の福井謙一社長(41)は「脱現金による環境負荷低減、人手不足に悩む企業の参考になれるよう、業務効率の大幅な改善やお客さまの利便性向上に努める」と意気込む。

 自治体が独自に発行し、特定の地域で利用できる電子地域通貨も広がりを見せキャッシュレス化を後押しする。前橋市は昨年12月に「めぶくPay」を始め、1万6千人以上が登録。市内の飲食店や小売店など約1200店が加盟する。

 既に各種キャッシュレスを取り入れるスズラン前橋店も加盟し、今年の初売りから始めた。販売促進課の担当者は「毎日利用があり、徐々に増えている印象。利便性があり、購買意欲につながるのではないか」と期待する。

 西毛地域の老舗和菓子店は、客の要望で昨夏からクレジットカードやQRコードなどに対応する決済を導入。2~3割の客が利用するというが、経営者は「原材料の価格高騰に加えて手数料の経費がかかる」と本音を漏らし、「世の中の流れで仕方ない」と渋々進める。

 経済産業省によると、消費支出のキャッシュレス決済比率は2022年、10年前と比べ2.3倍以上の36.0%。キャッシュレス決済比率を25年までに4割程度にする目標を掲げる。

9割が利用、支出意欲に影響も

 群馬経済研究所(前橋市)が先月発表した県内のキャッシュレス決済の利用に関する調査では、同決済を「利用している」は全体の約9割に上った。「同決済が利用できないと支出意欲が低下する」との回答は、全体の6割を超えた。

 最も利用しているのは30代が91.7%、次いで60代以上が91.0%。最も少ない20代も88.1%と幅広い年齢層が利用している。

 同決済を利用する理由は「ポイント・割引・特典が付く」が73.9%、「支払いが簡単」が57.3%、「現金を持たなくても支払いできる」が51.8%と続いた。

 同決済が利用できなくて困った場所の上位は、「病院・薬局」が14.0%、「スーパーマーケット」が13.3%、「飲食店」が13.1%だった。「同決済が利用できないと支出意欲が低下する」は全体で65.3%に上り、20代は73.6%と最も高かった。

 同研究所の稲田純也研究員(30)は「どの年代もキャッシュレス決済が浸透し、利用できないと販売機会を失うリスクの可能性がある」と指摘する。

 調査は1月下旬に実施し、県内居住の20歳以上の男女1000人が回答した。

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