知らなかった…定年直前の年収1,200万円の65歳元サラリーマン、退職金2,300万円でも「老後破産」の窮地に立たされたワケ【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本弁護士連合会の調査によると、60歳以上の「破産債務者」の割合は2008年:約16%→2020年:約25%と、高齢者による「老後破産」が増加しています。そして恐ろしいのが、老後破産危機に陥る人のなかには「現役時代に高収入だった人」も少なくないという点です。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが、ある男性の事例をもとに、老後破産に陥ってしまう「8つの条件」と回避策を解説します。

いま、「老後破産」に陥る高齢者が増えている

昨今、老後破産に陥ってしまう高齢者は増加傾向にあります。

2022年の政府統計データをみると、生活保護受給者は全体で199万3,867人ですが、そのうち65歳以上の高齢者は105万1,051人と全体の52.7%を占めているのです。

2000年時点では生活保護受給者が103万1,770人、そのうち65歳以上の高齢者は37万7,122人と全体の36.5%でしたから、この20年ほどで生活保護受給者自体の数が増加するなか、高齢者の割合も約16%増加していることがわかります。

なお、直近のデータを世帯数でみると、2023年11月時点での生活保護受給世帯数は全体で165万3,002世帯、そのうち65歳以上の高齢者世帯は90万7,424世帯と、全体の54.8%を占めています。

また、日本弁護士連合会、消費者問題対策委員会の調査によると、60歳以上の「破産債務者」の割合も増加傾向にあります。2008年調査では約16%でしたが、12年後の2020年調査では約25%に上昇しています。

いったい、なぜ老後破産に陥る高齢者が増えているのでしょうか。この背景には、下記のような要因が考えられます。

老後破産に陥る「8つの条件」

1.高所得で現役時代の生活水準が高く、年金生活になっても生活水準を下げられない

2.現役時代の所得に比べて年金が少なく、貯蓄を取り崩しながら生活している

3.住宅ローンの返済があり生活を圧迫している。または退職金で住宅ローンを繰り上げ返済したことにより預貯金が乏しい

4.子どもの学費を負担していたために老後の備えとなる貯蓄が十分にできなかった

5.予期していない病気により医療費がかかる

6.親の介護費用を負担したために貯蓄が減った

7.自分の介護費用を準備できていなかった

8.人生設計や金融知識が不十分

上場企業に勤務していたAさん(65歳)も、上記のような老後破産の「条件」に当てはまっていたうちの1人です。

定年後も“現役時代と同じノリ”でお金を使っていたAさん

現役時代の年収は1,200万円あり、退職金は2,300万円。65歳で定年退職したAさんは、「お金は十分にあるし、これからは自分の好きなことを思う存分楽しもう」と、退職してからしばらくは趣味三昧の暮らしを続けていました。

しかし……。気がつくと、趣味を楽しんでいるところではない状況に。グルメなAさんは、現役時代からディナーは外で食事をとることがほとんど。定年後も同僚や妻を連れて外食や買い物を続けていたところ、毎月の収支は大きくマイナスになってしまいました。

また、退職金もほぼ全額を住宅ローンの返済に充てており、まとまった現金は手元にほとんどありません。

さらに、Aさんの80代の両親は、最近実家へ帰るたびに衰えを感じます。近い将来介護が必要となれば、介護費用は1人あたり約500万円必要です(平均介護費用8.3万円/月×平均介護期間5年1ヵ月)。

両親の介護についてなにも考慮していなかったAさんは、急に不安になってきました。「親の介護にこんなにお金がかかるなんて知らなかった……しかも、いずれは自分や妻も介護が必要になるかもしれない」。

両親が介護費用をいくらか準備している可能性はあるにせよ、もしも自分が両親の介護費用を負担しなければならないと考えると不安で仕方ありません。また、年齢的にはAさんや奥様自身の介護についても考えなくてはいけませんが、その費用も心もとない状況です。

「このままじゃまずい……いまさら考えても仕方ないが、現役時代から節約しておけばよかった」

先述の「老後破産に陥る条件」のうち、「1.高所得で現役時代の生活水準が高く、年金生活になっても生活水準を下げられない」「3.住宅ローンの返済があり生活を圧迫している。または退職金で住宅ローンを繰り上げ返済したことにより預貯金が乏しい」「7.自分の介護費用を準備できていなかった」「8.人生設計や金融知識が不十分」の4点に当てはまっていたAさん。

さらに今後親の介護費用を負担することになれば、「6.親の介護費用を負担したために貯蓄が減った」にも当てはまり、老後破産危機に陥ってしまう可能性が高いといえます。現役時代高収入だったAさんは65歳のいま、老後破産の窮地に立たされています。

老後破産を回避する「6つ」のポイント

今回見てきたように、老後破産は、たとえ現役時代高収入であっても陥る可能性があります。そこで、Aさんのように老後になってから慌てずにすむよう、下記のような準備をしておくとよいでしょう。

老後破産を回避する「6つ」のポイント

1.「介護」も含めて人生設計を行う

2.家計の見直しを定期的に行う

3.現役時代の収入(貯蓄)だけで老後資産準備は不安であれば、iDeCoやNISAを活用する

4.自宅を購入する際は、老後のことを考えて検討する。できれば売却や賃貸に出すことも視野に入れ、あくまで「資産」として購入する

5.住宅ローン控除の期間が過ぎたら、余剰資金で早めに繰り上げ返済をしていく

6.定年後も収入を得られるよう、「リスキリング(学び直し)」を行う

老後破産を避けるためには、定期的に家計の見直しをすることはもちろんのこと、将来をどのように過ごしていくか考える「人生設計」も重要です。

現在では高校でも「お金の授業」がスタートしており、人生設計に加えて「資産形成」「借金」「社会保険」などについて学んでいます。社会人で十分収入がある方も、いまからでも必要な金融知識を身につけて計画を立て、実践していくことで、老後にゆとりを持って生活できるようになるでしょう。

また最近ではAIの発達により、いまある多くの仕事がなくなると予測されています。そのため、すでに働いている方や定年が近い方であっても、将来を見据えて「リスキリング(学び直し)」をしていくことも有益といえます。

副業を認める会社も増えていますので、学び直した知識やスキルを使って副業をすることで、老後の収入を確保・増加させることができます。

2024年から新NISAがスタートし、定年も60歳から65歳、さらに70歳へと引き上げられる予定です。お金に関するさまざまな制度が整備・更新されている昨今、過去の常識にとらわれず、新しい情報を取り入れながら、老後破産に陥らぬよう対策をとっていくとよいでしょう。

武田 拓也

株式会社FAMORE

代表取締役

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