【光る君へ】ついに結ばれる紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)。それでも夫婦になれない二人の今後は?

大河ドラマ「光る君へ」第9回より ©️NHK

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第9回「遠くの国」と第8回「月夜の陰謀」です。

前回はこちら。

悔しいことに、前回はみごとに騙されてしまった。あの右大臣・藤原兼家(段田安則)にである。うーん、あの一瞬目覚めたときの兼家の目と、それを見た息子である藤原道兼(玉置玲央)の表情をもっと疑うべきだった……と己の甘さを痛感した第9回「遠くの国」は、ひたすらショッキングで切ない回でもあった。

そして、この第9回と第10回「月夜の陰謀」は、望むと望まざるにかかわらず、貴族社会の権力抗争に巻き込まれていく藤原道長(柄本佑)の「宿命」に、一層グッと焦点が当たった回でもあった。

第8回の最後、東三条殿に入って捕らえられた盗賊の一人は、先日、道長の「弟」と偽って打毬(だきゅう)にともに興じた散楽一座の直秀(毎熊克哉)であった。驚く道長は、彼らを捕らえた武者たちに「この者らは誰も殺めてはおらぬ。命まで取らずともよい。検非違使(けびいし)に引き渡せ」と言い含める。

一方、散楽一座の隠れ家を訪ねたまひろ(後の紫式部/吉高由里子)も、彼らの仲間だと間違えられて、従者の乙丸(矢部太郎)とともに獄に連行されていく。ちょうどそのとき、道長も獄を訪れていた。直秀たちへの処分の軽減を求めて看督長に心づけを渡していたのだ。驚いた道長は慌ててまひろたちを救い出す。

大河ドラマ「光る君へ」第9回より ©️NHK

その後、廃屋で話をする二人。
「なぜ直秀たちを検非違使に引き渡したの? 直秀は都を出ていくつもりだったのよ。あなたが許してやっていれば、そのまま山を越えて海の見える遠くの国へ行っていたのに」
「許したいと思わなかったわけではない。されど、東三条殿には大勢の武者たちがおる。彼らの前で盗賊を見逃せば示しがつかない。盗賊が許されれば、武者たちとて何をしでかすかわからん」

「そんなに信用できない者たちばかりを右大臣家は雇っているの?」
「信用できる者なぞ誰もおらぬ。親兄弟とて同じだ。まひろのことは信じておる。直秀も」
「盗賊だってわかっても?」
「ああ、あいつはあれで筋が通っておる。散楽であれ、盗賊であれ、直秀の敵は貴族だ。そこを貫いているところは信じられる」

それぞれに立場の異なる3人に、しかし確実に通い合うものがある。周りの誰も、親兄弟さえも信じられない道長の孤独と、その中でまひろと直秀の存在がいかに大きいか、それが感じられるやり取りだ。

権謀術数に明け暮れ、己の立場を守るためには邪魔な人間への呪詛(じょそ)も殺害も辞さない貴族社会と、社会的に大きな後ろ盾もなく、真っ直ぐにしか生きられないため、損や失敗ばかりしているまひろと直秀。この帰り道、直秀らに盗品の施しを受けていた民たちが彼らのために祈る姿を見て、道長はますます直秀への思いを強める。しかし、彼らのように生きられない自分はどうしたらいいのか。

直秀たちがどうなるのかと問うまひろに、道長はこう答える。
「獄を出れば遠くの国に流される。直秀の望み通り、海の見える国だといいが」

「遠い国」は直秀だけでなく、ここ都ではどうしようもない道長とまひろにとっても、何かが叶いそうな楽園に思える場所なのだろう。それぞれの思いが透けて見える切ない場面だ。

直秀たちは流罪が決まり、その出立は翌日、卯の刻(午前5時~7時頃)だと聞いた道長は、従者の百舌彦(もずひこ/本多力)を使いに出し、ともに別れを告げようとまひろを誘う。しかし、翌朝、予定の時刻に獄を訪ねてみると、直秀たちはすでに出たという。行き先を尋ねると門番は「鳥辺野(とりべの)」だという。鳥辺野は屍(しかばね)の捨場である。

顔色を変えた道長は、まひろを馬に乗せて駆けつけると、すでに直秀一行は無残にも刺殺され、打ち捨てられたあとだった。直秀の右手を開いてやると、苦しみのあまり握ったのか、土がこぼれた。それを払い、自らの扇をもたせる道長。「皆を殺したのは俺なんだ」と慟哭しながら、まひろと二人手で穴を掘り、7人を埋葬するのだった。

まさか直秀がこんなに早々に退場となるとは、視聴者も予想しなかったのではないか。それほどに強烈な印象を残したキャラクターである。この急展開に、「ええぇ~、そんなぁ」と私たちの心もすぐにはついていけず、受け入れられなかった。思わず、直秀を演じる毎熊のX(旧Twitter)を見てみると、「姿は見せずとも空から見守っています」とあって、「ああ、本当なんだぁ」と泣きそうになってしまった……。

都に己の生きる場所を見つけられなかった直秀が憧れた「遠い国」。それは永遠に帰って来られないほどの、本当に「遠い国」になってしまった。

この回の急展開はまだまだ続く。内裏で倒れたあと、眠り続けていた兼家が、実はとっくに意識を取り戻していたということが発覚したのだ。花山天皇(本郷奏多)を退位させる秘策を安倍晴明(はるあきら/ユースケ・サンタマリア)から「買った」兼家は、「藤原忯子(よしこ)の怨霊がさまよっている」と晴明から花山天皇に告げさせる。さらに晴明は、忯子を成仏させるには帝が出家するよりほかないと進言するのだ。

そして第10回「月夜の陰謀」では、いよいよ兼家が、息子たち藤原道隆(井浦新)、道兼、道長と、外腹の藤原道綱(上地雄輔)を巻き込んで、6月23日に花山天皇を退位させるクーデターを実行する。晴明からこの日の丑の刻から寅の刻(午前1時頃~5時頃)までが運気隆盛で、この機を逃すと災いが降りかかると告げられていたためだ。

大河ドラマ「光る君へ」第10回より ©️NHK

一方で、道長はまひろに古今和歌集の一首を記して文を出し、まひろへの恋心を抑えられないと告げてくる。それに対し、返歌ではなく漢詩で応じるまひろ。混乱した道長が友人の藤原行成(ゆきなり/渡辺大知)に相談するくだりは、ちょっとかわいくて笑えた。

しかし、行成の答えには「おおっ、そうなのか」と目からウロコが落ちるように納得した。いわく「漢詩を送るということは、送り手はなんらかの志を託しているのではないでしょうか」。それを受けた道長は、今度は漢詩で返す。「我亦欲相見君」(あなたに再び会いたい)。

二人は廃邸で会い、結ばれる。このときの月夜の映像のなんと美しいこと。さながら平安絵巻、「源氏物語」の一場面のようで、ほら、大河ドラマって戦闘シーンだけじゃないでしょ! と再確認した思いだった。

美しいのは、二人が絶対夫婦にはなれない立場であるという切なさがあるからでもある。二人で「遠い国」へ行こうと言う道長。「藤原は捨てる」と言う道長にまひろはこう答える。
「あなたが偉くならなければ、直秀のような無残な死に方をする人は、なくならないわ」
「道長様が好き。すごく好きです。でも、あなたの使命は、違うところにあると思います」

それでも二人で「一緒に都を出よう」と説く道長。しかし、あくまでも首を縦に振らないまひろ。
「私は都であなたを見つめ続けます。誰よりもいとおしい道長様が、政によって、この国を変えてゆくさまを、死ぬまで見つめ続けます」

父の恐ろしい企みの前に、これから自らが生きていく社会の深い闇を知った道長だけに、体と心がバラバラになりそうなのだろう。生きていくには、今いる場所で「出世」していくしかない。しかし「出世」するには、手を汚さねばならぬこともある。まさに今取り掛かろうとしている花山天皇への騙し討ちがそうではないか。この都にいる限り、まひろとも一緒になれない。俺だっていっそ「遠い国」に行きたいんだ。そんな道長の葛藤や苦しみがあふれて、とにかく胸が痛む。それを必死に押し止めるまひろの健気さにも泣けてくる。

結局、道長は父に命じられた役割を忠実に果たし、道隆と通綱が、天皇の寝所から帝位の象徴である剣璽(けんじ)を東宮・懐仁(やすひと)親王(高木波瑠)のもとへ運んだことを確認すると、関白・藤原頼忠(橋爪淳)のもとへ馳せ参じ、花山天皇が退位し東宮が即位したと知らせる。翌朝、内裏に出向いた兼家は、自らが新天皇の摂政であり、蔵人頭には道兼を置くと宣言する。

権力を持つ者と持たざる者の「宿命」が残酷なほど鮮やかに描かれた第9回、10回。やがて権力の中枢に上り詰めていく道長の本心の柔らかな部分と、社会で戦い抜いていくための姿の萌芽が繊細に描写されていて、印象に残る2回だった。次回もますます楽しみ!


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