[ドローン活用の現在値]Vol.01 能登半島震災におけるドローン救助

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震で被災された皆様、ならびにそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

能登半島震災におけるドローン救助がもつ意味を探る

令和6年能登半島地震が起き、早くも3カ月を迎える。今回ドローンでの災害救助が本格的に稼働した事例は初めてかもしれない。ドローン事業者と行政で災害協定を結んでいる事例はいくつもあったが、今回ほどの規模は想定されていなかったように思う。そういう意味で初めての災害救助の事例となったと言えるだろう。

各社協力のもと、ドローンが被災地で活躍した理由の一つは、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)参与の嶋本学氏の存在がある。嶋本氏が音頭を取って被災地に速やかに向かい、実行にあたった。嶋本氏は元陸上自衛官で、災害対策で支援チームがどう動くべきか、自衛隊とのコミュニケーションなど災害対応に熟知していたことも幸いした。

その中で、被災地は1月2日12時に緊急用務空域に指定された。国、または地方の行政機関から依頼を受けた者からの要請がないと、指定地域内のドローンの飛行許可は下りない。

当初、県庁から要請を出すよう交渉をしたそうだが、重要性を理解されず、現場に近い輪島市に掛け合うことになり、結果、輪島市からの要請を獲得できたという。

輪島市の災害対策本部の中に、オブザーバーとして入ることにも成功した。輪島市の行政担当者や自衛隊から需要を吸い上げ、それに対応できるドローン事業者に依頼する「業務調整」をJUIDAが担当した。

そのおかげで、輪島市に集まったドローン事業者にドローン依頼が託されるフローが構成された。実は平行して、JUIDA以外に石川県庁に入ったドローン事業者として、イームズロボティクスがいる。

石川県庁には、災害対策本部のほかに、医療チームDMATも組織された。医療チームDMATも組織された。この医療チームにはドクターヘリなど空の活用に知見を持つ医師がおり、イームズロボティクスと共同訓練も行っていたため、ドローンチームとして入ることとなった。

医療物資調達、搬送、ケアなどのため、厚生労働省の職員もいるDMATには初動体制に必要な情報が集積される。ここに入ったイームズロボティクスが、JUIDA嶋本氏と連携をとることで、適切な調整、手配ができたという。

これによりドローン事業者の総力戦体制が災害時に組織され、初めてドローン事業者による業務体制が稼働したと言える。現地で活動した各ドローン企業の動きをそれぞれ見ていこうと思う。

災害時活動 各社参画の経緯と体制

各社の情報

※1 途中で要員交代あり。航空局への申請・交渉はリモートで別途担当スタッフ ※2 NTTドコモとKDDIに対応した2バージョン

稼働したドローン機体一覧

※3 水上で離着水できる ※4 衛星通信を利用した目視外航行が可能

被災地で活動したドローン企業6社に、具体的な活動についてDRONE編集部が独自に話を伺った。

■リベラウェア

IBIS2

リベラウェアからは長谷川大季氏にお話を伺った。同社は主に倒壊家屋内や大型商業施設のドローン捜索を実施した。

当初は、ドローン部隊が被災地入りし、輪島市役所の災害対策本部で告知したが、消防や警察はドローンの活用イメージが湧かず、要請がなかったという。

長谷川 大季氏

そのため長谷川氏は、現地の警察・消防に実際ドローンで何ができるのかを提案し、行政機関の許諾を得た上での活動、倒壊家屋のドローン捜索を家主から許諾を得て実施した。

行政との連携の重要性が浮き彫りとなったことで、事前に連携しておいて、震災時にはすぐ飛行可能な体制が不可欠だと長谷川氏は強く感じたという。

自社ドローンで倒壊家屋の調査したことで、ドローンの映像が罹災証明書のエビデンスになるのではないかという新たな気づきがありました。

警察、消防、自衛隊、各地方自治体等に、震災等の災害が起きたタイミングですぐにドローン部隊が活動できるような仕組みを作れるように働きかけないといけない。個々企業ではなく、業界全体でやっていくべきことではないでしょうか。

と長谷川氏は、語ってくれた。

■ブルーイノベーション

ブルーイノベーションの前川淳氏に話をお伺いした。ブルーイノベーションでは、主に自衛隊と行政からの依頼で孤立集落の空撮と、仮設住宅設置予定地域のオルソ画像制作を実施した。

自衛隊からの依頼は、ドローン空撮で集落が孤立しているか確認する内容だ。前川氏は、対象地域まで向かおうとするが、倒壊家屋、電柱が倒れていたために、不通で時間がかかったという。

通行可能な道を把握している自衛隊に通行可能なルートを教えてもらい移動することで、時間短縮させ、臨機応変に対応した。

輪島市の建設部門からの依頼は、輪島市が事前に定めていた仮設住宅を設置する施設がそもそも使える状態にあるのか、アクセスが可能なのかどうかをドローン空撮で確認する内容だ。

公共施設であれば災害対策本部がある市役所の許諾を得ればよいが、一般の民家やビルは通常、所有者の許諾をとってドローン撮影するのが基本だ。だが、災害時には誰に許可をとればよいのか、判断が難しかったという。飛行申請していたが、凄まじい数の警告メールが来て、一瞬不安になったと前川氏は話す。

前川 淳氏

体制面を考えなければいけない。なぜなら、3日間現地にいたがものすごく疲労困憊しました。長期になれば当然我々も疲弊する可能性がある。これはブルーイノベーションだけではなく、どの組織にも同じく言えることだろうと思います。

フライト時間よりガレキ上を歩く高齢者や子どもたちのフォローに時間をかけることになりました。

現地では、ドローンを飛ばすだけではなく、見掛けた高齢者や子どもたちのフォローをしていた前川氏。ドローン部隊として現場に入っても、本当にドローンで飛行する時間は一部で、実際には人命が最優先だったという。

自分が二次災害に巻き込まれる不安はありました。海沿いを走っているときに地震速報が鳴って、「これが今来たら終わりか」という思いを持ちながら被災地に向かいました。スキルや経験値をチーム内で揃えていく必要がありますね。

本当に状況判断能力が、かなり問われる現場だと語ってくれた。

■ACSL

SOTEN

ACSL田中優哉氏にお話しを聞いた。主に空撮と、エアロネクスト・NEXT DELIVERYのチームと一緒にドローン配送を実施。撮影はすべてSOTENで、オルソ画像を制作。ただ撮影依頼された場所は行くまでに通常の数倍の時間がかかり、想定件数をこなすことはできなかったという。

目視内だけで飛行しようとしたが、どうして難しい場合は、細心の注意払いながら目視外でフライトしたという。地震のリスクもあるのでチームメンバーとは一緒に歩かずに少し距離をとりながら移動するなど気を使ったと語る。

田中 優哉氏

「本当にこれで今これが崩れたら死ぬな」という死との隣り合わせの現場でしたね。

寒さがひどく、みんな寝袋一枚で寝ている状態で、夜中寒くて目が覚めるというかなり過酷な環境でした。

と現場を振り返る。課題としては、ノータム通知が、他社の発行された場所と時間が被っている部分がありグレーな部分があったという。

防災・輸送ヘリが頻繁に飛んでいるため、恐怖心はありました。ヘリ側では、ドローンが飛行していること自体、認識のない環境でした。現状で言えば、法的にも有人ヘリ機が優先で、ドローン側が避けなければならないというルールのため、慎重に注意する必要がありました。

ただ今のUTMのままでは多分ダメなので、もっと全体の連携が官民で取れるようなUTMというものがあると、すごくお互いに有用なものになると思います。

今後の課題については、災害対策本部に登録したような人たちが見られる災害時版UTM、民間企業も自衛隊の機体もとりあえず見えるようなものが必要だという。

■エアロネクスト・NEXT DELIVERY

エアロネクスト・NEXT DELIVERYは、青木孝人氏にお話を伺った。彼らは、主に道路が途絶した孤立地域の避難所に医薬品などをドローン輸送し、物流を担った。

ドローン輸送を実施する前に、一回現場に行って住民に説明し、輸送ポイントの座標取り、また戻った上でドローン輸送をスタートするという、作業が発生したという。

西尾公民館のケースでは、自衛隊が片道8kmを3時間かけて運んでいたが、ドローンなら片道15分ぐらいで輸送できたと青木は語る。現地の被災者からは薬のニーズがとても高く、ドローン輸送の高い有用性を示すことができたと、目を細めて言う。

国交省から緊急性高いもののみにドローン輸送が限定されていたが、途中からサニタリー品などニーズに合わせて送れるようになり、レギュレーションも状況に合わせて変化したという。

青木 孝人氏

現地は風速が15m/sで、飛行中の機体がとても不安定でした。機体のスペックを上げて、全天候型の機体の開発を国家プロジェクトで行うべきだと思います。

ドローン輸送開始前に、着陸ポイントの確認をなくすために、事前にハザードマップで直陸ポイントが決まっていると良いでしょうね。

と、課題をいろいろな視点で挙げてくれた。確かにハザードマップにドローンの着陸ポイントを記載するのはドローンの社会実装を推し進める青木氏ならではの視点だ。

緊急用の空域での飛行は初経験だったという。大阪航空局に連絡後、自衛隊から連絡が来て、「飛ばす空域はここで間違いがないのか、飛ばす直前と飛ばし終わったあとに連絡ください」といったやり取りが発生した。この方法の場合、ドローンの数が多くなると破綻するため、緊急用UTMなど別の方法が必要になるだろうと語る。

■Le Ciel DRONE

各社からの協力要請を受けていたLe Ciel DRONEの鵜飼大樹氏にお話を伺った。主に、孤立集落の空撮と燃料のドローン輸送を実施した。

空撮も輸送もどちらも強風や雨のため、フライトは予定よりもこなせなかったという。空撮ではDJI M300及びMavic3を使用し、輸送ではSkyDriveのSkyLiftを使用して、灯油と軽油をドローン輸送した。自衛隊からの依頼のため、飛行申請は自衛隊の人に電話一本で許可が取れたという。

鵜飼 大樹氏

発災して一次捜索の段階ですぐ、ドローンを飛行させなければ意味がない。ワンテンポ遅かった。しかし、現地の人からは、ガソリンや軽油を人の手をかけずに10kg、20kgでも輸送するニーズが予想以上にありました。

と鵜飼氏は語ってくれた。初期段階でなくてもドローン輸送が役に立つケースはあるという。

さらに課題としては、通信の問題をあげた。

LTEが通じないエリアで、それに対応できる災害用通信を確立する必要があります。衛星通信、中継基地局を展開し、ネットワークを構築するなど対策が必要です。

また今回はドローン業界の一部はボランティアで動きました。ドローン業界を将来のことを考えると、利益を出せる仕組みをつくることが大前提です。災害時にドローン業界が、どう動いて対応していくこともしっかりと考える必要があります。

■イームズロボティクス

イームズロボティクスの曽谷英司氏にお話を伺った。石川県庁11階のDMAT本部に常駐して業務調整役を同社の宇田氏が担当。これは2015年から千葉北総病院と防災医療ドローンをどのように現場で使えるのか、実験を重ねてきたことによるものだ。

曽谷 英司氏

イームズロボティクスが、業務調整として実施したことは以下の通りだ。

  • JUIDAとDMATの連携。県庁側のリエゾンとして活動
  • 関係機関への情報共有。DMAT内のMTG内容を経済産業省、国土交通省、JUIDAに共有
  • 空域調整。消防のヘリやドクターヘリがいつどこで飛行するか、毎日9時にJUIDAと共有
  • 政府側とドローン企業の活動に航空法132条が適用されるように協議
  • 政府の実動機関が情報を共有しているSIP4D利活用システムにおいて、ドローン企業が撮影したオルソ画像を閲覧可能にした

また、かなりオルソ化のニーズがあり、長距離フライト、防滴の機体という点から、スペースエンターテインメントラボラトリーや双葉電子工業、ANAに参加してもらい、面として撮影ができる体制をつくって空撮を実施した。

メーカーとしては、今回のような風速15m/sの雨の中でも、GPSが入らなくても、きちんと飛行できるドローンの開発を5カ年計画で実施する予定です。

さらに重要なことは、平常時からの連携です。連携がないと災害時に十分に活動できないことは自明なのです。

と、曽谷氏は強く語った。これは病院と実証実験を重ねてきた同社が、今回DMATとうまく連携して、リエゾンとして機能できたことに裏付けられている。


見えてくる現状と課題

現場で対応にあたったドローン企業の皆さんによる被災地への貢献は言うまでもないが、一方で、様々な課題が見えてきた。今回、以下の問題点を挙げたい。

  • (1)連携体制の構築
  • (2)航空法と自衛隊法
  • (3)航空管制の整理
  • (4)ドローン機体のスペック不足
  • (5)稼働費について

(1)JUIDAが輪島市役所の対策本部において行政機関や自衛隊との業務調整にあたったが、今後同じような事態の際に誰がどのようにリエゾン役を担うのか、各ドローン企業とはどのように連携するか、業界全体で決定する必要があるだろう。加えてドローン企業のための災害支援マニュアルの整備も必要だ。

(2)航空法や自衛隊法について、ドローン業界人でも理解している人が少ないのが現状だ。自衛隊の依頼で飛行させる場合、航空法の効力はなくなるのか、クリアにする必要がある。

(3)航空管制は、空域においてドローンから自衛隊のヘリコプター、ドクターヘリ、消防や警察のヘリコプターの飛行管理が一元管理されていないのが問題だ。現場で同じ空域を飛行するドローンとヘリコプターがお互いにリアルタイムで把握できる災害用の統合UTMが解決策の一つといえる。

(4)過酷な環境下でも十分に機能するドローンが求められる。全天候型で、強風下での安定性、長距離での通信安定性、長時間フライトできる機体開発が求められる。

(5)ボランティアで参加した企業と、発注ベースで参加した企業と、2つのケースが存在したことだ。自衛隊の災害派遣の際は、発生した費用はすべて自治体に請求されるという。国もしくは地方自治体からの依頼で稼働した分の費用は請求可能な仕組みづくりが必要と言える。

なお今回は、お礼を申し上げたい。またコメントをいただいた皆さんにおいては、個々の意見や経験に基づいており、各企業の公式なコメントを意味するものではないことはご了承いただきたい。

さて、ドローン部隊が現地入りが6日であり、発災から5日経っている。この空白の5日間にもしドローン部隊が被災地に入ったら、どのような活動ができたのだろうか。次回は、課題の部分をさらに掘り下げていきたいと思う。

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