「新幹線パーサー」おもてなしに密着 知られざる役割の裏側で何が… 普通車の車内販売が終了

新幹線の旅で長年親しまれていた車内販売ですが、山陽新幹線では15日で普通車は終了し、16日からはグリーン車だけになります。日本の大動脈でサービスを提供している「新幹線パーサー」は、どんな思いで乗客を迎えているのでしょうか。1日の仕事に密着しました。

パーサー 向井未来 さん
「ワゴンサービスのご利用はいかがでございますか」

山陽新幹線「のぞみ」。笑顔で車内販売をしているのは、広島市出身の新幹線パーサー・向井未来 さんです。

パーサー 向井未来 さん
「揺れに強くなる方法は慣れるしかない。わたしもバランスをとるスノーボードとかは苦手ですので」

向井さんの一日は、販売に使うワゴンに飲み物や弁当、新幹線グッズなどおよそ70種類もある商品を準備することから始まります。そのほかにも連絡用端末の動作確認、服装や髪・メイクなどの身だしなみのチェック…。てきぱきと支度を整えます。

パーサー 向井未来 さん
「入線が9時6分、出発が9時7分、14番線です。いってまいります」

ホームに入る新幹線に一礼。乗客への感謝を表しているそうです。広島駅を出発し、出発駅の博多からのパーサーと引き継ぎをしていると…

パーサー 向井未来 さん
「どのようなものをお探しでございますか」

小倉から名古屋へ出張の乗客
「小倉駅だと『とおりもん』が売ってなくて…。だから新幹線でいつも買ってます」

あわてて乗車したためにおみやげを買い忘れ、車内で購入する乗客も多いそうです。3年前、向井さんがパーサーになったのは、接客が好きだったことと、新幹線が好きだったからだそうです。

パーサー 向井未来 さん
「家が新幹線の沿線で子どものころから好きです。新幹線の中で働くのがかっこいいと思ったから」

乗客から次々に声がかかり、どんどん商品が売れていきます。新幹線内で売れる商品トップ3を聞いてみました。

パーサー 向井未来 さん
「1番がコーヒー、2番がアイスクリーム。生もみじが単品でもおみやげ用でも人気ですね。トップ3がこの3つかな」

向井さんが販売を担当する博多ー新大阪間でパーサーの基地となる営業所は4か所あります。ここでは売れた商品の精算や補充をして、次の業務に備えます。

パーサー 向井未来 さん
「忘れ物ないですよね?」

― だいじょうぶ?
「これは忘れ物でした、ありがとうございます。たくさんの商品を買ってくれたお客様さまがいたので、いつも以上に(売り上げが)多かったです」

パーサーが乗車するのは1日に3便以上…。こちらは、『ハローキティ新幹線』です。普通の車両との違いは外観デザインだけではありません。1号車にグッズショップやフォトスペースなどを備えています。パーサーの制服もキティちゃん仕様になります。

乗客の親子
「大阪の親せきに会いに行った帰り、(子どもが)乗りたいっていうから乗ったよね」

海外の旅行客に特に人気なんだそうです。

パーサー 向井未来 さん
「サンキュー」「いろんな国の言葉が飛び交うのを聞いていて楽しい」

休憩時間は同僚と過ごします。

パーサー歴3年 向井未来 さん
「『よろしかったですか?』って言ってしまう癖がある。『よろしいでしょうか』ですよね?」

パーサー歴半年 森美結 さん
「(連結部で)駅に着くまでお客さまと時間があって、何を話したらいいのかな?」

パーサー歴7年 金山彩香 さん
「『ご旅行ですか?』と聞いたら『どこどこに行くんですよ』って言ってくれるので…。その手があるかな」

この日、向井さんは、JR社員と合同で研修を受けていました。

新幹線パーサーは、2年前から車内販売以外に車掌業務の一部も担うようになりました。乗り継ぎ案内や座席の変更、急病人への対応や乗り降りが不自由な人の介助、そして事故や故障などの緊急時の対応もします。

JR西日本 博多総合車両所・広島支所 渡邉徹 支所長
「異常が発生したとき状況を知るのが大事一番。出くわすのはパーサーもその1人。速やかに車掌や運転手に知らせて情報提供いただくのが一番大事だと思います」

架線が切れたことによって停電し、新幹線が動かなくなった事態を想定した訓練です。故障列車に救助列車を近づけ、渡したはしごから乗客を避難させます。「700系のぞみ」16両の座席は1323席。国内で最も大きな旅客機の2倍以上の乗客を乗せています。

一方、16両編成の新幹線で乗務員は、運転手と車掌2人、そしてパーサーの合わせて4人。緊急時の乗客の避難は乗務員同士の連携が欠かせません。

パーサー 向井未来 さん
「飛行機事故のニュースを見たとき、大人数を避難させられるのか?と不安になりましたが、乗務員がお客さまからしたら一番の頼り手だと思う。しっかりこれからも勉強しようと思いました」

向井さんは、これまでも避難誘導の研修をしていましたが、実際の車両を使った訓練は初めて。ひとりで避難ばしごを下ろすのは、考えていた以上に難しかったようです。

パーサー 向井未来 さん
「重くて難しかったです。お客さまが降りやすいようにゆるやかなはしごを作れるように工夫したいと思いました」

― もし、本番があったらできますか?
「できます!」

乗客
「お姉さん、本当にすてきです。旅がいいものになった。優しくされたので好きになりました」

パーサー 向井未来 さん
「販売するときは親しみやすく、何かあったときにはすぐ声がかけやすいようなパーサーになりたいと思います」

山陽新幹線の車内販売はあす(3月16日)から『のぞみ・ひかり』のグリーン車のみとなります。

◇ ◇ ◇

コメンテーター 木村雅俊 さん(中国新聞社 編集委員室 特別委員)
「仕事があんなにたくさんあるとは知らなかったですね。出張で東京方面から最終の新幹線に乗って、お弁当買えなかったときに、お弁当買って、ビール買って、対応よかったら大人買いでアイスクリームまで買っちゃいます。これが自分に対するごほうびで、そのとき、新幹線パーサーに笑顔で接してもらえるので、疲れもとれます。いい思い出ばかりです」

青山高治 キャスター
「向井さんは『よりお金を払ってでも、グリーン車に乗りたいと思ってもらえように、接客スキルの質を高めていきたい』と話はされていました。そして『新幹線の中で働くのってかっこいいって思った』って言葉は、とても印象に残りましたね。

中根夕希 キャスター
「最近、地震が多いので、そういう緊急時の対応もされる、1人のその重責・役割の大きさも感じました。」

青山高治 キャスター
「実際、向井さんは去年の夏に乗務中に新幹線の停電を経験されたそうですね。トンネルの中がこう真っ暗になって、空調も使えなくなったんですが、そういう時に乗客のみなさんの前でより明るく対応されたということで、きっと明るさとか落ち着きとかも与えてくれる、そんな存在なんだなと思いました」

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