<4>近くで見守り一緒に動く 家庭を補う 希望って何ですか

月の家でお風呂に入り、スタッフに髪を乾かしてもらう子ども=8日夜、宇都宮市内

 宇都宮市内の母子家庭で暮らす舞(まい)さん(11)=仮名=と、その母親(45)を伴走して支えた川田奈美(かわたなみ)さん(43)の支援のバトンは、学校や市スクールソーシャルワーカーを経由し、同市内の子どもの居場所「月の家」につながった。

 この場所は、貧困やネグレクトなどで十分な養育を家庭で受けられない小中学生が利用している。放課後の勉強や食事、入浴、洗濯などの支援をし、それぞれの家庭で不足している部分を補う役割を果たしている。

 昨年11月から週2回、月の家に通う舞さん。たまに同学年の女の子と言い合いになり、ぴりっとした空気が流れることもある。「でも、それが人間関係を学ぶということだからね」。月の家の責任者星美帆(ほしみほ)さん(59)は温かなまなざしを向ける。

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 児童養護施設に勤めていた星さんは1997年、昨年9月に亡くなった夫の俊彦(としひこ)さん(享年69)らと自立援助ホーム「星の家」を立ち上げた。当時、児童養護施設にいる子どもは高校に進まなかったり中退したりすると、帰る場所を失っていた。そうした行き場のない子どもを、寝食ともにして支えてきた。

 多くの子どもと過ごす中で、俊彦さんが常々口にしていたことがある。

 「中学を卒業した後に出会うのでは遅い」

 心に傷を負い、ともすれば生きる気力に乏しい子どもを癒やす難しさ。子どもが子どもらしくいられるよう、小さいうちから心を満たせる、地域で見守る存在が必要だと痛感していた。

 2010年、養育能力が十分でない家庭の機能を補完する初めての居場所が日光市内にできた。運営するNPO法人の理事も務めていた俊彦さんは、日光から宇都宮に戻るたび熱っぽく語った。

 「日光であれだけ子どもの居場所のニーズがあるということは、人口50万人の宇都宮に俺たちのことを待っている子どもはいっぱいいるぞ」

 14年7月、月の家が開所した。

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 星さんは子どもを「わくわくさせること」「守ること」を大切にしている。

 誕生日の子どもがいたら、好きな料理を晩ご飯に出す。周りの子どもたちは部屋を飾り付け、お祝いの色紙を渡す。親が運動会や卒業式に出席できないなら、星さんらスタッフが代わって見に行く。

 今月上旬、平日の午前7時半。星さんが市内にあるアパートの呼び鈴を鳴らした。部屋から出てきたのは、月の家に通う小学2年の女の子。星さんは母親に代わってその子を車に乗せ、小学校まで送った。

 「やっていることは、おばあちゃんの代わり」と星さんは笑う。でも「そうして一緒に動くことが、子どもやお母さんが自分らしくいられる手助けになる」と確信している。

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