社説:北陸新幹線の延伸 再考すべき京都の地下縦断

北陸新幹線敦賀駅(福井県敦賀市)

 きょう、北陸新幹線の金沢―敦賀(福井県)間が開業した。

 次の延伸計画は、大半が京都府の地下を貫いて大阪に至るルートに決められている。だが前提条件は破綻しているに等しく、強行すれば京都の将来に重大な禍根を残しかねない。

 今こそ、再考すべき時である。

 日本海側を通り東京と大阪を結ぶ北陸新幹線は1973年に計画を決定。敦賀開業で延長約700キロの8割がつながった。

 大阪までの延伸は滋賀県米原や舞鶴などの路線案もあったが、与党が2017年、福井県小浜―京都駅―京田辺市松井山手―新大阪駅を決めた。22年後の46年開業を想定し、詳細ルートに向けた地質調査中である。

 関西や北陸の経済・観光を振興し、災害時の代替交通になるとの役割を掲げる。しかし、京都への負荷はあまりに大きい。

 福井から南丹市、京都市などを縦断するにあたり、路線の大半を占める約60キロは用地買収が不要な「大深度地下」(地表から40メートル以下)を貫くという。

 京都盆地の地下は、琵琶湖の8割近くの水量が眠る「水盆」ともいわれる。地下水を利用した食、観光、伝統産業など京の経済や暮らしを潤している。

 周辺河川を含め、大深度工事は影響予測が難しい。他府県では水枯れや陥没事故が相次ぐほか、長期工事で出る大量の残土の処分も深刻な問題になり、住民生活を脅かしている。

 費用対効果も甚だ疑問だ。国土交通省が17年に示した大阪延伸費用は2.1兆円。資材費や人件費の高騰で4兆円を超えるとも見られる。現に各地の整備新幹線コストは膨張が続く。

 費用の3分の1は沿線自治体の負担となり、苦しい財政を直撃する。京都の住民サービス低下に跳ね返る恐れがある。

 当初試算では、便益の見込みを建設費などで割った費用対効果は1.1と辛うじて効果超としたが、もはや絵に描いた餅ではないか。急激に進む人口減少を含め、計画の前提が崩れている以上、見直しは欠かせない。

 石川県小松市議会は工事区間が短い米原ルート採用を求めて決議した。在来線を利用した「ミニ新幹線」を推す声もある。

 反発が一部の地域や政党にとどまるとみるのは過小評価だ。

 一昨年の京都府知事選の際、本紙の府民世論調査では計画推進は3割弱にとどまり、「再検討すべき」「不要なので中止すべき」で計6割に達した。

 昨年4月の京都府・京都市議選の全候補181人で、現ルートを明確に是としたのは26人だけだった。今年2月の京都市長選では自民党元府議の候補が「計画反対」を第一の主張とし、当選した松井孝治市長でさえ賛同を明言しなかった。

 このまま突き進み、自治体事業ではない問題が選挙の度に争点化するなど、京都の分断と混乱を招く事態を危ぶむ。

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