「困難を抱えている子どもがこんなにいるとは思わなかった」
2022年5月に始まった芳賀町西部にある子どもの居場所。町内初の開設から2年近くが経過し、運営するNPO法人「Hinata」マネジャーの鈴木明美(すずきあけみ)さん(59)は、そう実感を込める。
「この町にも支援が必要な子どもたちがいる」という町職員の呼びかけを契機に、鈴木さんや、法人の理事長を務める酒井和夫(さかいかずお)さん(62)ら現役の里親らが居場所を立ち上げた。
支援を始めると、困窮だけでなく、多くの家庭がさまざまな悩みを抱えていることが次第に見えてきた。
ひとり親の仕事が夜遅くに及び子どもだけで寝るまでを過ごしている家庭、発達に凸凹のある子どもと悩む親、病気で働くことが難しい親、あまり学校に足が向かない子ども…。困難は多岐にわたっていた。
さまざまな事情から家庭で暮らせない社会的養護の子どもを支えている里親の鈴木さんたちでも、実情は想像を超えていた。
◇ ◇
開設当初は4人の利用で始まった。支援のつながる先としてこの居場所があることで、支える子どもは1人、2人と増え、現在は4~15歳の22人が通っている。
その一方で、子ども1人当たりの利用日数を減らさざるを得ないことや、親や子どもとの関わり方、町や学校との連携の在り方など悩みは尽きない。
鈴木さんは、中でも「親との関係づくりが最も大きな課題」だと考えている。
子どもに必要な支援を行うためには、困り事を知ることが必要だ。でもそれは、親子と関係性を築いた先でしか知り得ない。親の気持ちを想像すれば「ずけずけ入り込まれたくはないだろう」と感じる。だからこそ「聞く」ではなく、「伝える」を意識している。
◇ ◇
「今日お風呂だめだった。ごめん」
3月上旬。居場所を利用する子どもがお風呂に入りたがらなかったことを、鈴木さんはある母親にLINE(ライン)で送った。
学校や保育園からの連絡事項、居場所での様子など、気がついたことは何でも伝えるようにしている。
あるとき、一人の母親から打ち明けられた。
「発達障害の子どものいる親同士が話せる場があればいいんですけど」
母親は、子育ての相談を当事者でしたがっていた。
「それなら、ここにそういう場をつくろう」
この居場所を、親が困ったときにも頼れる場にしたい。親に心のゆとりができれば、子どもも安心すると思う。だから、鈴木さんは即答した。
困っている家庭を支えるために、少しずつ距離を縮め、信頼を築いていく。「毎日『これでいいのか』と思いながらやっています」。試行錯誤が続いている。