「がんばれ!小さき生命たちよ」1000g未満で生まれる赤ちゃんと両親の葛藤と戸惑い、そして笑顔~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】

予定日より4カ月以上早産で生まれたお母さんと赤ちゃん。(ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」より転載)

出生数の減少が社会問題になっている現在の日本。その中で出生体重2500g未満で生まれる低出生体重児の出生数は増加し、厚生労働省の人口動態統計のデータによると全体の出生数に占める割合は9.4%となっています。新生児集中治療室(NICU)で医療を受ける赤ちゃんたちの成長や家族のかかわりについて、専門家に聞く短期連載がスタート。 テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務め、地元の小中高校で「NICU命の授業」を続けている神奈川県立こども医療センター周産期医療センターで25年間新生児医療にかかわってきた豊島勝昭先生に話を聞きます。
今回は、NICUに入院する赤ちゃんと家族はどんな状況なのか、NICUの医療はどんなものか、などについて聞きました。

約12人に1人生まれる低出生体重児。「早産はだれにでも起こりうること」コウノドリ監修医師と考える新生児医療と発達支援【専門医】

NICUに入院。妊娠24週で生まれた約500gと約600gの双子

新生児集中治療室(NICU)は、早産や低体重で生まれた赤ちゃん、お産の途中で具合が悪くなった赤ちゃん、心臓などなんらかの生まれつきの病気がある赤ちゃんたちが治療を受けるところです。

――小さく生まれてNICUに入院する赤ちゃんと両親は、実際はどのような様子なのか教えてください。

豊島先生(以下敬称略) さまざまですが、地元の小中学校の授業でお話ししている早産で双子の赤ちゃんを出産された家族を例にあげてお話しします。

双子を妊娠中のお母さんが妊娠24週で高熱が出て、母子ともに危険な状態になりました。そして緊急帝王切開で、約500gのゆずちゃんと約600gのことはちゃんという双子の姉妹が誕生しました
双子の赤ちゃんたちは生後2カ月間、保育器の中で人工呼吸器を含めた集中治療を受けていて、お母さんとお父さんは保育器に手を入れて触れることしかできない日々が続いていました。生後2カ月半になったとき、やっとお母さんとお父さんは双子をカンガルーケアすることができました。カンガルーケアとは、親子が素肌を触れ合わせて抱っこすることです。

生まれて初めての抱っこに、両親は涙ぐみながら優しく微笑んでいました。双子が早産になるかもしれなくて転院されてきたばかりのころのお母さんとお父さんは、まるで「この世の果て」にきてしまったような表情でした。けれど、双子ちゃんたちがNICUで頑張って治療を受ける姿を応援しながらお母さんとお父さんにも少しずつ笑顔が増え、わが子たちの日々の変化に喜んでいるようでした。小さく生まれ、命の危険もあったからこそ、成長に喜び、子どもの頑張りやその子自身の命の力強さに気づけることもあるのだと思います。

これは私の地元の街で成長する子どもたちに「NICU命の授業」で、いつも伝えているご家族の様子です。

――そもそもNICUにはどんな赤ちゃんが入院するのでしょうか?

豊島 NICUには早産や小さく生まれたり、出産の途中で具合が悪くなったり、生まれつきの病気がある赤ちゃんが入院します。皮膚も薄く、脳や肺や心臓など体の機能が未成熟な赤ちゃんたちのために、NICUには呼吸や心拍を常時確認するモニターや、呼吸を手助けしたり体温や栄養をこまやかに管理するための設備や医療機器があり、医師や看護師が24時間365日体制で働いています。

――小さく生まれる赤ちゃんはどのくらいいるのでしょうか。

豊島 出生体重 2500g 未満で生まれる赤ちゃんを「低出生体重児」といい、さらにその中で1500g未満を「極低出生体重児」、1000g未満を「超低出生体重児」といいます。
日本では出生数が減少していますが、低出生体重児の割合は増えてきています。日本で、1500g未満で生まれる赤ちゃんは年間およそ8000人ほどです。
神奈川県立こども医療センター周産期医療センター(以下、神奈川こども)では1500g未満の赤ちゃんは年間70〜80人、このうち1000g未満の赤ちゃんは年間およそ40〜50人の入院があります。

早産になる可能性は約5%。在胎週数を延ばす治療が行われる

人工呼吸器を抜管した日の赤ちゃんと、家族3人で。(ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」より転載)

――冒頭の双子ちゃんのように、妊娠中に早産などになる可能性はどのくらいあるのでしょうか?

豊島 日本では、妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産を早産と呼びます。妊娠22週の胎児の体重はおよそ300~500gぐらいです。全妊娠の約5%が早産になります。

早産の原因はさまざまです。
お母さん側の原因としては、前期破水、切迫早産、子宮頸管無力症(しきゅうけいかんむりょくしょう)、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)などで、このような場合、妊娠を継続することがお母さんと赤ちゃんの命の危険につながることもあるために、母児の救命のために早産にせざるを得ないことがあります。

赤ちゃん側の原因としては、胎児発育不全や多胎妊娠や羊水過少症などがあり、赤ちゃんの状況によっては、早く出産し治療したほうがいい場合もあります。

――妊娠22週より前に赤ちゃんが生まれることもあるのでしょうか。

豊島 21週6日以前に生まれると、流産となります。早産になりそうだとわかった場合、何とか在胎週数が延びるように切迫早産治療などを行なうことがあります。ただ、1000g未満で生まれる赤ちゃんにはさまざまな医療が必要なので、対応できる病院は限られています。

神奈川こどもでは、早産になりそうで入院した家族に、生まれる前から早産になった場合にどのような入院経過をたどるか、どんな合併症が起こり得るか、退院後にどんな成長をしていくことが多いか、身体障害や発達障害を持つ可能性などを過去の診療成績を基に率直にお話ししています。

その上で、家族が赤ちゃんのためにどんなことをできるか? NICU入院中や退院後にどんな支援があるか? などを詳しく説明しています。早産で生まれたからといって悲嘆すべきことばかりでないこと、その中で幸せを感じて生活するお子さんや家族がいることを伝えられたらと考えています。
ほとんどの両親は、悩みながらも「産みたい」と決断されます。早産であっても「一緒に生きていきたい」とお母さん・お父さん自身で決断されることがとても大切だと思っています。

でも、中には治療は望まないという家族もいます。私はその想いを否定するつもりはありません。小さな赤ちゃんを治療して命をつないでも、そのあと家族が育てていけるのかを真剣に考えて、不安で戸惑う気持ちがあるのも自然と思えるからです。家族には数値などを踏まえて起き得ることを伝えて、子育てのさまざまな社会的な支援もあることを説明することを心がけています。過去に同じような話し合いをした先輩家族のさまざまな経過もお話ししています。

「早産になってしまう、ではなく、おなかの中の赤ちゃんにとって一緒に生きていくためには、この状況の中でよりよい誕生日を選び直す」という気持ちで、困難もあるかもしれない状況でも、希望を持って出産してNICUでの入院生活を始めていただけたらと願って、出生前から伝えられることをすべて説明しています。その上で、出産を決めるのは家族だと考えています。

突然の早産では戸惑いが大きい

――赤ちゃんが1500g未満のように小さく生まれた場合、両親はどのような反応をすることが多いでしょうか。

豊島 妊婦健診で早産になる可能性があるとわかり、事前に赤ちゃんの状態や出産後のことを説明できている場合と、妊娠中に急に体調が変化したり破水したりして突然出産になる場合とで、違うと思います。

前者の場合は、生存率や合併症のことや障害があるかもしれないことなどを、事前に両親にお話ししています。事前の説明を受け「赤ちゃんのためによりよい誕生日を決めて迎えよう」と家族で決断した上で出産した両親は、赤ちゃんの小ささに戸惑いつつも、誕生を喜ぶ気持ちになりやすいと思います。

ですが、突然出産となる後者の場合は戸惑いが大きいでしょう。準備もイメージもないままに出産となり、生まれた赤ちゃんはすぐ保育器に入れられて、小さな体にはたくさんの管がつながれます。そんな赤ちゃんに会うと、自分がイメージしていた赤ちゃんと違う、とショックが大きい場合もあります。けれど、急に生まれても、赤ちゃんに人工呼吸器がつけられていても、赤ちゃんをかわいい、と思える両親もいて、反応は家族によってさまざまです。

――小さく産んでしまった、と自分を責めるお母さんもいると聞きます。

豊島 お母さんたちが「小さく産んでしまった」「おなかの中で大きくしてあげられなかった」と自責の念を持つということはよく言われますが、それはNICUのスタッフでも、どの程度、そのような自責の念をお持ちなのかは、わかりづらいです。
保育器の横で泣いているお母さんばかりではありません。NICUに赤ちゃんの面会に来て、命が生まれたことを喜んでいるお母さん・お父さんたちもたくさん見受けられます。ただ、心にさまざまな想いがあるのは想像できます。

もし自分たちを責めていたとしても、それをNICUにいるときに口に出して表現する人は少ない気がしています。自身の気持ちにも整理がついていないのかもしれません。しかし、私たちは赤ちゃんがNICUを卒業後もフォローアップ診療をしているので、ある程度の時間が経過してから、お母さんやお父さんに当時はつらい気持ちに向き合っていたと聞くこともあります。

早産の場合、保育器の中で治療を受ける赤ちゃんに両親ができることが少ないことで無力感を持ちやすいと思えます。それが自責の念につながることもあるでしょう。赤ちゃんの合併症の予防や成長発達にもいい効果がある母乳育児や面会などは、両親だからこそできることです。NICUでは「両親を含めたチーム医療でお互いできることをして赤ちゃんたちをみんなで応援できたら」という気持ちを伝えることがあります。

親子が一緒に過ごす時間で発達にいい影響が

人工呼吸器管理中の赤ちゃん、初めてのカンガルーケアの日。(ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」より転載)

――NICUで保育器の中にいる赤ちゃんの肌に、お母さんやお父さんが触れることは愛着形成の意味でも大切なのでしょうか。

豊島 集中治療が必要な赤ちゃんとお母さん・お父さんが一緒に過ごすことで、治療を受けている赤ちゃんの安静が保てて、それが赤ちゃんの治療経過や発達にもいい影響を及ぼすことはさまざまな研究の結果からわかりつつあります。

一緒に過ごす時間の中で、親子の愛着も高まり、育児する中で親としての自信もつくこともあります。NICU入院中に家族からたくさん声をかけてもらった赤ちゃんは、2歳になったときに言語発達がいいという研究報告もあります。私たちのNICUでも、赤ちゃんの入院中に家族がくつろいで長く面会できることが、何よりの赤ちゃんたちへの応援になると期待しています。

――保育器の中にいる赤ちゃんがあまりにも小さくて、怖くて触ることができない、という人もいますか?

豊島 そういうお母さん・お父さんもいます。そういう場合、医療者は、触ることなどを無理強いしなくていいと考えています。声かけもそうですが、医療者側がマニュアル的に、NICUのルールや慣習を守ろうと頑張りすぎないように気をつける必要があります。
「お母さん頑張りましょう」と言われてつらくなってしまうときもあるし、「赤ちゃん、かわいいですね」という言葉がつらく感じる時期もあります。頑張れない自分、赤ちゃんをかわいいと思えない自分に対してつらくなってしまうことがあるからです。そのあたりは非常に難しいなと日々感じています。

私たちは、医療者が望む両親というものをお母さん・お父さんたちに演じさせてはいけない、と気をつけています。お母さん・お父さんたちが医療者に合わせて我慢や無理をしてはいけないと思うからです。
だから「赤ちゃんに触れてみますか」と伝えるときも「お母さんと触ってもらうと、元気になることがあるんですよ」「体調も安定することがあるんですよ」というふうに、様子を見ながら伝えるようにしています。

お話・監修/豊島勝昭先生

写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

日本では妊娠・出産は安全なイメージがありますが、妊娠中は予期せず急な体調の変化も起こりうるもの。授かった大切な命をおなかで育てることの大切さや、万が一早産になったときのことを知っておく必要があるかもしれません。

●記事の内容は2024年2月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

神奈川こどもNICU 早産児の育児応援サイト

がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2

© 株式会社ベネッセコーポレーション