【シンガポール】東南アジアで脱炭素が本格化[IT] 排出量管理アスエネに聞く(上)

東南アジアでCO2排出量管理ソリューションの需要が拡大していると話すアスエネAPACの濱田氏(NNA撮影)

東南アジアで企業の脱炭素の取り込みが本格化しつつある。各国が地球温暖化対策として二酸化炭素(CO2)排出量の削減に力を入れていることが背景にある。CO2排出量の管理ソリューションを手がけるアスエネ(東京都港区)のアジア太平洋地域統括会社であるアスエネAPAC(本社・シンガポール)のカントリーマネジャー兼ディレクター、濱田雅章氏に域内での排出量削減の動向を聞いた。

——CO2排出量算定では排出源を基にカテゴリーが分かれている。

温暖化ガス排出量の算定・報告のために定められた国際的な基準として、スコープ1(自社排出量)、スコープ2(電力使用などに伴う間接的な排出量)、スコープ3(調達・サプライチェーン=供給網=全体の排出量)があるが、業種や国によって重点を置くスコープは異なる。

シンガポールの主要産業の一つである海運業では船舶燃料の使用で特にCO2の排出が多いことから、スコープ1で燃料に対する排出量を算出するケースが多い。シンガポール、タイともに製造業が主要産業の一つのため、大きな供給網を抱えていればスコープ全体に対する意識が高くなる。

日本だと上場企業が温暖化ガス排出量の管理意識を明確に持っているほか、中小企業は「スコープ1・2」を管理することでサプライチェーンとしての自分たちの役割・責務を果たせると考えている。日本の動きに追随するシンガポールではスコープ1~3を自発的に意識する企業が増えており、CO2排出量算出・見える化の需要が拡大している。

タイでは「スコープ1~3をまとめて管理しよう」といった意識の高い企業も出てきたが、排出量算出システムの運用まで至っていない企業もみられ、国によって意識の程度はまちまちのようだ。

——スコープ3は15カテゴリーに分類される。

スコープ3はサプライチェーンの上流(カテゴリ1~8)と下流(同9~15)に分かれる。スコープ1・2にはない燃料・エネルギー関連活動が含まれており、燃料の採掘、精製、購入、輸送なども捉える必要がある。

メーカーならカテゴリー1(購入した製品・サービス、注:パッケージングの外部委託などを含む)やカテゴリー4、9(上流・下流の輸送、配送)など、小売業ならパッケージング、輸送などの比重が多くなる。金融だとカテゴリー15(投資)があり、投融資先のポートフォリオ(資産構成)の排出量削減を管理する必要がある。このように業種によってスコープ3でも排出量管理のニーズは多様だ。

製造業の切り口でいえば、欧州連合(EU)が2026年に本格導入する炭素国境調整措置(国境炭素税、CBAM)がある。EUと同等以上の環境規制がない国・地域からの輸入品に事実上の関税をかける新たな仕組みだ。昨年10月から試験的に導入されており、EUへの輸出が多いメーカーはこうした措置も意識する必要がある。

——東南アジアでの排出量算出システムの普及状況は。

簡易的な算出システムが多く、スコープ1~2は無料というサービスも増えている。ただ今後は当社のようにスコープ3までを含む専門的な知識を持つ業者が求められるだろう。

アスエネが持つ強みは三つある。一つ目はCO2排出量算定やサステナビリティートランスフォーメーション(SX、企業と社会で持続可能性の追求を両立させること)のコンサルティングだけでなく、ESG(環境・社会・企業統治)評価ソリューションや、SBIホールディングスと共同で設立したカーボンクレジットの排出権取引所「Carbon EX(カーボンEX)」を展開するなど多様な事業を展開している点だ。環境関連サービスをワンストップで提供し、長期的にはESGのコングロマリット(複合企業)を目指している。

二つ目は製品とコンサルティングをセットで提供するビジネスモデルだ。システムだけを受け取っても専門家の助言がないと企業は環境目標を達成できないと考えている。

三つ目は日本での顧客基盤が大きいことだ。約4,000社への導入実績がある。多様な業種へのサポートを通じて得られる知見がコンサルティングにも生きている。例えば物流でのCO2排出量の削減方法の場合、「電気自動車(EV)への切り替えやルートの最適化で排出量が削減できる」といった助言など、顧客のニーズに合わせた提案をしている。

——海外に拠点を置く日系企業の環境対策に対する取り組みをどうみているのか。

日本本社の方針が出るのを待つか、あるいは現地で自発的に取り組みを始めるかは企業が持つ文化や価値観によって変わってくる。ただ報告のためだけに情報を提出するなら、本質的な環境問題、ESG課題の解決には向かわないだろう。まずはCO2排出量の見える化により現状把握をしながら、節電や廃棄物削減など自社でできるところから始める意識が重要ではないだろうか。(聞き手:清水美雪)

※「下」に続く

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