2024年「ゾンビ企業って言うな!」 ~ 推定56.5万に迫る利上げ、重点支援先の見極めが重要 ~

コロナ支援の反動と産業構造の変化

信用力に不安がある企業への注目が高まっている。背景にあるのは、「倒産増加」と「過剰債務率」の高止まりだ。
2023年の企業倒産(負債1,000万円以上)は8,690件(前年比35.1%増)に達し、増加率はバブル崩壊の1992年(同32.1%増)を超える高水準を記録した。2023年12月の「過剰債務」企業率は24.8%(※1)に達し、4社に1社が債務過多を訴える異常事態だ。コロナ禍の大規模で矢継ぎ早な資金繰り支援が過剰債務を引き起こし、いま企業を苦しめている。

※1 2023年12月18日公表「業績予想・過剰債務・私的整理に関するアンケート調査」


2023年の企業倒産の負債総額ランキングの上位には、パナソニック液晶ディスプレイ(株)(TSR企業コード:322101352)の5,836億円を筆頭に、「らくらくスマホ」を展開していたFCNT(株)(TSR企業コード:027062554、商号は当時)の872億円、印刷方式の有機ELディスプレイの普及を目指した(株)JOLED(TSR企業コード:300600798)の337億円など、かつて日本が世界を席巻していたエレクトロニクス分野の凋落が目立つ。パナソニック液晶ディスプレイは特別清算で会社が消滅し、FCNTとJOLEDは民事再生だが、一部事業を譲渡し、最終的に清算される予定だ。
こうした産業構造の大きな変化に着目する与信担当者もいる。「コロナ禍支援の反動による倒産増」という紋切り型の理由の「その先にある危機」を先取りし、債権保全や今後の営業展開に活かそうとする動きだ。その際に話題に上るのが「ゾンビ企業」だ。

ゾンビ企業とは何か

ゾンビ企業の定義は複数ある。アカデミズムの分野では星岳雄・東京大学大学院経済学研究科教授による「事業自体に懸念のある企業であるが、事業再構築が行われることなく、債権者や政府の金融支援によって破たんを免れている」との定義が主流だ。いわゆる「星方式」は、長短プライムレートや社債の発行実績による最低クーポン率と貸借対照表(BS)上の有利子負債か支払利息の下限の理論値を導き出すことをベースとする。
一方、国際決済銀行(BIS)によるゾンビ企業の定義は、「設立10年超で3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(利払いに対する営業利益+受取利息・配当金の比率)が1を下回る企業」だ。
東京商工リサーチ(TSR)は、2022年2月にBISの基準に則り、ゾンビ企業率を初算出した。その後、TSR社内で議論を重ねてチューニングし、2023年2月にゾンビ企業率の改定値を公表した。具体的には、ゾンビ企業率の算定後に国内企業数(経済センサスベース)と掛け合わせてゾンビ企業数を推定することを念頭に置くと、国内企業数は必ずしも設立年がクリアでない場合があることを考慮し、分母となる企業数の算出では設立年の縛りを外した。
今回(2024年)は昨年の基準を基に、星教授が指摘する「債権者や政府の金融支援」にも注目した。資金繰りをつかさどり、金融支援の実働部隊となるのは金融機関だ。支援者であり主要債権者の性格も持ち合わせる金融機関の貸出利率は、中央銀行の政策に影響を受けることに注目した。遠くない将来に利上げ局面が到来することも予想されるため、借入金利の上昇も加味したゾンビ企業率も算出した。

ゾンビ企業率、大幅悪化

まず、BIS基準を基にしたゾンビ企業率を算出した。TSRが財務データを保有する企業を対象にしたが、決算年度ごとに変動はあるため、分母となる企業数は概ね20万~30万社だ。2022年度(4-3月)は15.38%で、前年度より3.41ポイント悪化した。上昇幅は、リーマン・ショック以降では2010年度(2.19ポイント増)を上回り、最悪となった。2023年度は決算未確定の企業もあるため参考値だが、14.45%と若干良化した。ただ、過去の分析から直近決算の参考値は最終的に1ポイント以上悪化する傾向にあり、手放しで喜ぶことはできない。
さらに詳細な分析もした。分析の基となるBIS基準は、主に損益計算書(PL)を拠り所にしているため、BSやキャッシュフロー(CF)の数値は反映されていない。このため、分子を「営業利益+受取利息・配当金」ではなく、営業CF(簡便法)に変えて算出した。事業活動で生み出すキャッシュが恒常的に利払い負担を下回っている場合を「ゾンビ企業」と定義する分析だ。この「営業CF」基準によるゾンビ企業率は、2022年度が4.80%で、前年度より0.64ポイント悪化した。
参考値だが、2023年度は4.89%だ。営業CF基準では、2022年度の数値より悪化しているが、背景には海外需要や昨年5月の新型コロナの5類移行による国内の経済再活性化を取り込み、売上債権や棚卸資産が増加(営業CFのマイナス要因)し、ゾンビ企業率を押し上げた可能性を含むべきだろう。
また、近時の物価上昇が棚卸資産の増減に影響を与えていることも考慮する必要がある。
上記2つの基準で「ゾンビ企業」と判定された企業が期末時点で債務超過であるかも加味して分析した。すると、2022年度の「BIS基準+債務超過」によるゾンビ企業率は5.94%(前年度比1.49ポイント増)、「営業CF基準+債務超過」は2.11%(同0.35ポイント増)だった。2023年度(参考値)は、それぞれ5.37%、1.99%だ。

さらに、BIS基準+債務超過基準と営業CF基準+債務超過基準の双方に当てはまる最狭基準での割合も算出した。2022年度は1.60%(前年度比0.45ポイント増)、参考値の2023年度は1.50%だった。
今回の分析で、最も厳しい基準での2022年度の「ゾンビ企業率」は1.60%ということになる。
これを経済センサス(令和3年活動調査)の企業数である368万社に当てはめると、2022年度のゾンビ企業数は以下の通りだ。

○BIS基準:56.5万社(368万*15.38%、前年度比12.5万社増)
○営業CF基準:17.6万社(368万*4.80%、同2.3万社増)
○BIS基準+債務超過基準:21.8万社(368万*5.94%、同5.5万社増)
○営業CF基準+債務超過基準:7.7万社(368万*2.11%、同1.3万社増)
○最狭基準:5.8万社(368万*1.60%、同1.6万社増)

最も厳しい最狭基準でもゾンビ企業は5.8万社で前年度より1.6万社も増加したと推定される。最も緩いBIS基準では56.5万社で、12.5万社増だ。いずれのゾンビ企業率も悪化し、ゾンビ企業数が増加したが、推定率・数には大きな幅がある。1つの基準のみを取り上げてゾンビ企業数を断定するのは、いささか実態を見誤りかねない。

異常値を算出しやすいBIS基準

大事なことは支援が必要な先をよりクリアにすることだ。このため、窮境の度合いが最も深刻とみられる最狭基準でのゾンビ企業率を業種小分類ごとに分析した。2023年度は12月期と3月期決算の未達企業が多く、2022年度を中心に算出した(前年度比較含む)。
2022年度に「ゾンビ企業率」が高かったのは「一般貸切旅客自動車運送業」の16.67%で、唯一15%を上回った。また、4位に「一般乗用旅客自動車運送業」(12.20%)、9位に「一般乗合旅客自動車運送業」(5.26%)、10位に「貨物軽自動車運送業」(5.13%)がランク入りした。2021年度の自動車運送業の10位以内のランク入りは2業種のみで、2022年度は大幅に悪化した。これらの業種は、いわゆる「2024年問題」による人手不足の加速や労務費の増加が見込まれる。今回の調査によって、他業種と比べ経営が悪化していることが浮き彫りになったが、取り巻く環境はさらに厳しさを増すとみられる。
なお、BIS基準による2022年度のゾンビ企業率を業種別(45分類)で分析すると、「宿泊業」が52.96%、「織物・衣服・身の回り品小売業」が31.58%と算出される。コロナ禍の強力な支援策は企業決算に大きな影響を与えた。このため、少ない勘定科目に依存して算出するBIS基準では異常値が出やすいことを示している。

金利上昇、0.1%でも致命傷

今年2月の日銀の政策決定会合で、大規模な金融緩和策の維持を決めた。ただ、市場では遠くない将来に引き締めに転じるとの観測が根強い。企業の資金調達は政策金利に影響される局面が強い。実際、TSRのアンケート調査では、約7割の企業が年内の借入金利の上昇を意識(※2)している。このため、今後の金利上昇がどの程度ゾンビ企業率を押し上げるかも分析した。
借入金利の上昇がゾンビ企業率に与える影響を複数シミュレーションした。2022年度の決算を基に、PLの支払利息額をBS上の有利子負債で割った数値を当該企業の調達(借入)金利とした上で、仮定上昇金利(今回は+0.1%、+0.3%、+0.5%)をプラスした。これに有利子負債を掛け合わせ、ゾンビ企業算定の元となる金利上昇時の仮定利払い負担を算出した。
この結果、BIS基準では0.1%の上昇でゾンビ企業率が15.38%から17.18%へ1.8ポイント悪化した。しかし、+0.3%では17.88%、+0.5%では18.58%で、「仮定金利上昇率」の増加幅に必ずしもゾンビ企業率の悪化は一致しない。ほかの基準も同様で、営業CF基準では0.1%の上昇で4.80%から5.28%、BIS基準+債務超過基準では5.94%から7.06%、営業CF基準+債務超過基準では2.11%から2.55%、最狭基準では1.60%から1.95%で、+0.1%でのゾンビ企業率の悪化幅が、+0.3%と+0.5%の上昇時を上回った。
借入金利の上昇によって市場から退出をすぐに余儀なくされるわけではないが、小幅な金利上昇でも影響が甚大なことがわかった。

※2 2024年2月14日公表「2024年2月金融政策に関するアンケート調査」

ゾンビ企業って言うな!

ここまでゾンビ企業の実像に迫り、具体的な支援先の立案に役立つ分析を試行錯誤した経緯を記載した。窮境局面にある企業への支援は一分一秒を争う。机上の空論を超えたハンズオンに繋がる分析は欠かせない。
TSRが構築する財務データは、原則として取材対象企業の協力を中心に成り立っている。一部では、「収集データをこねくり回して、ゾンビ企業とラベリングするのは失礼極まりない」との意見もある。また、過剰債務率の高止まりや倒産増加の局面を迎え、再生ビジネスバブルも一部では見受けられる。
ゾンビ企業率は格好のプレゼン資料にもなるが、TSRはコロナ禍の2020年後半から「過剰債務」問題を懸念し、声にしてきた。そして、2022年の初算出から一貫して「ゾンビ企業って言うな!」とのタイトルで、分析を基にした精緻な企業支援の必要性を主張している。
「ゾンビ企業って言うな!」は、真摯に事業に向き合ってきた経営者の怒りの声であり、経営者と現場で向き合うTSR社員の呵責であり、再生ビジネスバブルを我先に謳歌しようとする一部の再生界隈へのメッセージでもある。
政財界を取材すると、「再生局面にある企業は数十万社だが、実際に対応できるのは良くて十数万社だろう」との声も聞こえる。窮境する企業数に対して、救われる可能性がある企業はあまりにも少ない。このため、再生の可能性が高かったり、窮境局面に陥る恐れのある企業や業種へのサポートにシフトしているようだ。
今回の分析では、0.1%の金利上昇でもゾンビ企業率は敏感に反応し、金利引き上げの耐性は決して高くないこともわかった。
金融政策の決定は、物価や賃金上昇ばかりに目が向くが、金利上昇を見据えた影響や手当の検討も重要になっている。
ゾンビ企業って言うな!――。
キャッチーな数字だけでは、誰も救えない。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年3月6日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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