恐ろしい…「運動しない中高年女性」の末路。運動機能の〈加速度的な低下〉がもたらす、ツラすぎる老後【医師が解説】

(画像はイメージです/PIXTA)

人生100年時代、少しでも長く健康を維持したいもの。しかし、日々の生活習慣によっては、生活のQOLが大きく下がってしまうケースも…。日常生活での留意点とは?医師がわかりやすく解説します。※本連載は、医師・常喜眞理氏の著書『オトナ女子 あばれるカラダとのつきあい方』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

ロコモティブシンドロームは「寝たきりのもと」

意外かもしれませんが、実は中高年にこそ筋トレが必要です。

「この歳から筋トレ? 私はウォーキングで十分です」などと言わないでください。何も運動をしなければ、年齢とともに筋肉量・筋力はどんどん低下していきます。

このことが、「ロコモティブシンドローム」と呼ばれる運動機能の低下を加速していくのです(図表1参照)。

[図表]ロコモティブシンドロームとは イラスト 加藤陽子

この「負のサイクル」の中で、骨折などの怪我、大きな病気などをして長期に渡って動けなくなると、一気にサイクルが進みます。

また中高年の転倒事故の原因のひとつは、足腰の筋肉のおとろえから「すり足」気味になることで、つまずきやすくなることも挙げられます。

ロコモティブシンドローム(ロコモ)の行き先は……そうです、「寝たきり」予備軍です。もうそれは、他人事ではないのです。

腰痛、ひざ痛などの関節トラブルも招きます

筋力の低下は関節へのサポート力の低下でもあります。筋肉の支えが弱くなると、腰痛、ひざ痛などの関節のトラブルも起きやすくなります。これに運動不足からくる体重増加が加わると、関節が悲鳴を上げるのも無理からぬことです。

肩の筋肉が落ちれば、肩こりもひどくなります。

さらに運動機能の低下だけでなく、ロコモは先ほど挙げた肥満、内臓疾患(しっかん)、消化吸収力の低下など、万病につながる由々しき事態をも招きます。最近の研究では、運動不足と認知症は、関連している可能性が高いとも言われています。

クオリティ・オブ・ライフの向上。そしてやりたいことをやれる人生のために、今日からでもトレーニングを始めようではありませんか。

◆日本整形外科学会による簡易診断に挑戦

自分の足腰が弱っていないかどうか、簡単なチェックをしてみましょう。

以下の項目に思い当たる方は要注意。足腰が弱り始めているサインです。

●片脚立ちで靴下がはけない

●家の中でつまづいたりすべったりする

●階段を上がるのに手すりが必要である

●やや重い家事が困難である(布団の上げ下ろしなど)

●2キログラム程度の買い物をして持ち帰るのが困難である

●15分くらい続けて歩くことができない

●横断歩道を青信号で渡りきれない

(『ロコモパンフレット』2015年度版より)

◆効率よく筋力アップするなら、まず下半身(足腰)から

中高年からの運動というと、ウォーキングがもっとも一般的かもしれません。

確かに息が弾むほどのペースで行うウォーキングは全身運動であり、有酸素運動として有効です。精神的なリフレッシュなど、副次的な効果もあるでしょう。

しかし筋力をしっかり維持するためには、それだけでは不十分です。ある程度の負荷をかけながら筋肉を伸縮させる、いわゆる「筋力トレーニング」=「筋トレ」が必要になってきます。

トレーニングジムでインストラクターと相談しながら、年齢や体調、持病などを考慮して運動メニューを作成してもらうのがベストですが、誰にでもできることではないでしょう。

そこで、ここでは自宅でもできる簡単な筋トレ「スクワット」をご紹介します。

大女優の黒柳徹子さんが1日に何百回もやっているなど、最近ではよく聞かれるようになりましたが、ご存知のとおり立った状態からひざを曲げて、腰を落としたり上げたりする簡単な運動です。

このスクワットのよいところは、下半身の筋肉をくまなく鍛えられること。人間の筋肉の7割が下半身にあります。正しい姿勢で行うことで、お尻とももの筋肉を中心に、背筋や腹筋にも刺激を与えられます。「下半身(足腰)を制する者、筋トレを制す」なのです。

正しいやり方、フォームについては「スクワット正しいやり方」で動画をネット検索すればたくさん出てきます。そのうちのいくつかを見れば、共通する注意点があることに気づくでしょう。

チェックポイント

●足は肩幅に開き、できれば爪先はまっすぐ(無理なら少し開きましょう)

●腕を前に伸ばすとバランスがとりやすくなります

●特に腰痛持ちの方は背筋を反らさず(お尻を突き出さず)、お尻の穴が地面に向くように下腹に力を入れ、そのままの体勢でひざを曲げる

●ひざを曲げるとき、ひざは爪先より前に出ない

●ひざに負担がかかるので、ひざは90度以上は曲げない

●腰を下ろすときにはゆっくりと、立ち上がるときにはやや素早く

●お尻とももの筋肉を意識しながら行う

椅子に座って、そこから立ち上がった状態から始めるのもいいかもしれません。万一バランスを失っても、椅子が受け止めてくれますし、座面に触れる前に体を伸ばせば、ひざを曲げすぎることもありません。

ひざに故障のある方には座ったり、寝ながらできる筋トレもありますので、ぜひ、ご自分にあった運動をお探しください。

筋トレといえば、ダンベルやマシントレーニングを想像しがちですが、自分の体重だけでも十分な負荷がかかります。まずは無理のない範囲で、1日おきに5~10回を2~3セットぐらいから始めることをおすすめします。

中高年からの運動は「無理しない、されど甘やかさない」

さて、ここまで運動、特に筋トレの重要性について述べてきましたが、中高年からの運動については、若い頃とは違った注意が必要です。

それは、決して「無理をしない」ということ。この歳からの運動には、効用だけでなくリスクもあるからです。

若い頃に筋力トレーニングの経験がある方は、インストラクターにこんな指導を受けたことはありませんか?

「トレーニングの翌日に、筋肉の張りや痛みをしっかり感じるくらいのウエイト(負荷)を使い、翌日はトレーニングを休み、まだ少し痛いかな……というあたりでトレーニングを再開するのがいいですよ」と。

これは言い換えれば、強い負荷を与えて筋肉をいったん壊して、それが再生するときに前よりも太くなるという、筋肉の超回復の特性を利用しましょうということです。要するに「ムキムキになる」ための運動、アスリートのための筋トレです。

しかし中高年からの筋トレは、アスリートになることが目的ではありません。あくまでも筋力の維持が目的です。筋肉の再生力が落ちている中高年が、いたずらに筋肉を壊すことは逆効果、本末転倒です。

また、強すぎる負荷は関節のケガにもつながります。無理は禁物です。特に真面目な方はつい頑張りすぎてしまいがちですので、お気をつけください。

最初はダンベル等は使わず、少し疲れを感じるくらいの負荷で充分です。どうしてももの足りないという方は、段階的に回数を増やしたり、ごく軽いダンベルから使うのがいいでしょう。負荷を上げるのはゆっくりと、慎重に行うことをおすすめします。

もし痛みを感じたら、すぐに運動をやめてください。あまり痛みが激しいときには専門医に相談しましょう。

しかしここが肝心なのですが、痛みが引いたら、また少しずつ運動を再開することです。

ここでやめてしまっては元の木阿弥です。自分を甘やかしすぎるのもいけません。大事なのは、運動する習慣を維持することです。

またウォーキングをするなら平地で行ってください。階段は禁物です。

ひざは痛めて手術をしても、元どおりには決してなりません。歩くだけでも体重の2〜3倍、階段昇降では体重の3〜7倍の負荷がひざにかかることが知られています。

関節をなるべく長く、痛みなく使うには、不要な負担をかけてはいけないのです。できるだけ平地を歩き、エスカレーターやエレベーターも積極的に利用してください。

無理しない、でも甘やかさない。

なかなか忍耐がいりますが、人生100年時代を乗りきるためです。ここはぜひ、頑張ってください。

常喜 眞理
家庭医、医学博士

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