陸前高田のご当地サイダー 半世紀の歴史に幕 メーカーの津波からの復興を支えた商品 原材料、資材の高騰に耐えられず 岩手

岩手県陸前高田市の名物として半世紀に渡り親しまれてきた「マスカットサイダー」の製造が2月末に終了しました。東日本大震災で被災した飲料メーカーを支えた商品で、16日には惜しむ人たちが工場を見学する自転車ツアーを行いました。

16日、陸前高田市の内外から集まった人たちに手渡されたのは、陸前高田市の名物・マスカットサイダーの空き瓶です。
この日行われたのはマスカットサイダーを製造する神田葡萄園の工場見学付き自転車ガイドツアー。
製造と販売の終了が発表されたマスカットサイダーへの感謝を伝えるツアーです。参加者は「奇跡の一本松」などのスポットでマスカットサイダーの瓶をメインにした写真を撮りながら自転車でのツアーを楽しみました。
このツアー最大の目的地神田葡萄園に到着すると、熊谷晃弘社長の案内で工場の見学が始まりました。

(神田葡萄園 熊谷晃弘社長)
「マスカットサイダー、今年で51年になったロングセラーの地サイダーですね。それが間もなく販売を終了します」

販売終了が発表されたのは去年の9月です。半世紀に渡り地域に愛され、東日本大震災による津波で被災した後は神田葡萄園の復興を支えた大切な商品でしたが・・・。

(神田葡萄園 熊谷晃弘社長)
「考えが出てきたのはやっぱりコロナがあってからですね。コロナで一度落ち込んだ中でさらに追い打ちのように世界情勢が変わってきて、原材料であったり資材が上げ止まらずにどんどんどんどん上がっていってるという状況」

原材料価格の高騰や瓶の供給不足などが響き、税込み1本200円という安価なマスカットサイダーへの価格転嫁は難しいと、販売終了を決断しました。

2月29日、マスカットサイダーの最後の製造が行われました。
今年に入ってから製造したのは3万5000本。最終日のこの日は3000本が製造されました。
えびす様がトレードマークの緑色のこの瓶が製造ラインを通るのはこれが最後です。

(神田葡萄園 熊谷晃弘社長)
「ようやく終わるんだなという実感がわいてくると同時に我々もやっぱり少し寂しい気持ちを抱きながら製造にあたって、きょう最後っていうことで。それでも最後の最後までお客さんに良い状態でお届けして、お客さんが喜んでいただけることを想像しながら製造していこうと」

歴史に幕を閉じる作業には全員が心を込めてあたりました。

「マスカットサイダーに感謝を込めて、乾杯!」

自転車ツアーの最後に飲むマスカットサイダーの味は格別です。

(参加者)
「おいしい」
(神田葡萄園 熊谷晃弘社長)
「そうですね、ありがたいですよね。最後の、本当にもう最後の最後なんで。こうして最後に思い出にしてもらえるのはすごい有り難いですね」

半世紀以上愛された陸前高田のご当地サイダー。緑の瓶と爽快な味わいは、味わった人の心の中で生き続けます。

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