削り花(3月19日)

 線香の煙がたなびく中に映える。赤、紫、黄の色鮮やかな木製の花。中通りを中心に、春彼岸の墓前に手向けられている。ご当地にとっては当たり前の風景のようだが、全国的には珍しい風習という▼「削り花」と呼ばれる造花だ。竹や角材をかんななどで薄く削り出す。カラフルに色付けし、数枚を重ねて花びらに見立てる。東北地方の一部では春の彼岸に寒さが残り、生花を用意できなかった。その名残とか。県北や県南などのスーパー、農産物直売店で店頭をあでやかに彩る▼農作業の閑散期に農家で作られてきた。その後、地域の婦人会や老人会がその役目を担う地域もあったが、高齢化とともに作る人が減ってきた。川俣町の多機能型の就労施設では20年ほど前から、伝統の作業を受け継いでいる。利用者と職員が年間を通して10万本以上を手がけているが、需要は年々減っているという▼温室での栽培技術が向上し、今では四季を通して生花を飾れる。それでも削り花はどこか手作りの素朴さと、あたたかさを感じさせる。あす20日は「彼岸の中日」。丁寧な手仕事に感謝しつつ、目を閉じる。そのぬくもりはまるで、ご先祖様のように懐かしくもある。<2024.3・19>

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