飼い主が苦手なものは犬も苦手?犬が抱える複雑なホンネをひも解く

飼い主さんが怖がるってことは、怖いものでしょ!

苦手な人と会っているとき、飼い犬が吠えたのはもしかして?と、不思議に思ったことはありませんか。話題の新刊『最新研究で迫る 犬の生態学』から、犬が抱える複雑なホンネをひも解いてみましょう。動物行動学の知見からすると、犬は飼い主の行動や表情を観察しているようです。

★泣いていると犬が近づいてくるのはなぜ?★

飼い主の行動や表情を手がかりに、身の周りのことを判断している

子犬は最初、母犬が怖がるものを怖がります。
これは、心理学用語で「社会的参照」と呼ばれる現象です。情報が少なくてどう行動したらいいかわからないとき、母犬の様子をうかがって表情や行動を観察し、それを手がかりにして自分の行動や反応を決めることができます。

犬の社会的参照は、飼い主や同居犬など、信頼できる相手に対しても起こります。
飼い主が接触を望まない相手であれば飼い主の声や様子から察知し、自分も接触を避けようとします。犬は飼い主の恐怖やストレスを嗅ぎ分けることができるといわれており、そうした情報も判断材料にしている可能性があります。

また、困っている飼い主に対して不親切にふるまった人には、食べ物で誘っても近づこうとしない、という実験結果も報告されています。飼い主への態度から「いい人」「悪い人」を見極めるのかもしれません。

飼い主の反応から自分の態度を決める

こわばった表情、わずかな後ずさり、ストレスから出る嫌な汗......。
飼い主のわずかな変化を参照して、 自分がどうふるまうかを決定することができます。

飼い主がストレスを感じる相手を危険人物とみなす可能性も

ストレスを感じる相手と対峙した飼い主の、汗のにおいや緊張した表情、筋肉のこわばりなどを敏感に感じ取ります。「信頼できる飼い主が緊張する相手= 警戒すべき相手」とみなし、威嚇したり、接触を嫌がったりします。

あくびもストレスも飼い主と共有。付き合いが長いほどシンクロ率がアップ

あくびがうつるのは、共感や関心から行動を真似るためですが、これは人と犬の間でも同じ。見知らぬ人より飼い主のあくびの方がよりうつりやすいことが実験でわかっています。

犬の呼吸や心拍数は飼い主とシンクロするといわれており、 一緒に暮らす期間が長いほど、その傾向は強まります。

また、ストレスもシンクロします。飼い主と犬の毛に含まれるコルチゾール量を調べた結果、長期間に渡ってコルチゾールの増減、つまりストレスレベルが同調したという報告もあります。

「適当ほめ」と「本気ほめ」を見分けられる

飼い主が語る言葉は、犬にはどのように理解されているのでしょうか。

普通に名前を呼んだり、ほめるようなイントネーションをつけて呼んだりしたときのfMRI(MRIを利用して脳の機能や活動を観察するもの)の結果、名前を聞き分けるときには左の脳が、イントネーションを聞き分けるときには右の脳が活性化したことがわかりました。

つまり、左脳で単語を、右脳でイントネーションを理解しているということ。これは人間の言語処理に関わる脳の部位と全く同じです。また、自分の名前をほめるようなイントネーションで呼ばれることで脳内の報酬系が活性化し、ドーパミンが分泌されて喜びを感じていることも判明しました。

このことからわかるのは、犬に伝わりやすいほめ方のポイント。
ほめ言葉(「えらい」「いいこ」など)を、ほめるようなイントネーションで伝えたときだけ、 喜びが得られるということ。
ほめ言葉でも不機嫌な声や平坦な声では伝わらないと考えられます。

イラスト/さいとうあずみ

※この記事は『最新研究で迫る 犬の生態学』(菊水健史著 エクスナレッジ刊)の内容をWEB掲載のため再編集しています。


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