[社説]日銀マイナス金利解除 生活への目配り必要だ

 物価と賃金が相まって上昇していく好循環など、沖縄をはじめとした地方経済では見通せないのが現状だ。働く人の7割が雇用されている中小企業にも活気が及ぶか、行方を見極めていく必要がある。

 日銀は19日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の柱だったマイナス金利政策の解除を決めた。利上げは2007年以来17年ぶりで「異次元緩和」と呼ばれた11年に及ぶ金融政策の大転換である。

 具体的には、マイナス0.1%としていた短期の政策金利を0~0.1%程度に誘導する。1%程度としていた長期金利の上限についても撤廃し、金利全般を抑制する「長短金利操作」を終了する。国債の買い入れは続け、長期金利の急激な上昇を防ぐ。

 異次元緩和を巡っては、金利が大きく下がって経済に一定の刺激を与えた一方で、大量の国債の買い入れが市場機能を低下させた。政策転換は当然の流れだ。

 植田和男総裁は記者会見で「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定目標の安定的な実現が見通せる状況になった」と述べた。

 今春闘の平均賃上げ率は33年ぶりの高水準となり、消費者物価指数は今年1月まで22カ月連続で日銀が掲げる2%を上回った。ただ、物価変動を加味した実質賃金は前年同月を下回り続けており、消費は勢いを欠いている。この2年の物価上昇も、主にエネルギーや原材料価格の値上がり、円安が要因で、「好循環」は脆弱(ぜいじゃく)だといえる。

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 マイナス金利が解除されれば銀行の貸出金利は上がりやすくなる。

 金利の解除が発表された19日、三菱UFJ、三井住友、みずほのメガバンク3行では普通預金の金利が上がる見通しとなった一方、県内の地銀3行は、預金や住宅ローンなどで金利の引き上げ決定はなかった。ただ、いずれ検討を迫られることは必至であろう。

 預金者は利息が上がるが、住宅購入者の7割が選んでいる変動型住宅ローンは多かれ少なかれ影響を受ける。企業にとっては設備投資や人材確保といった場面で資金調達の足かせになる可能性がある。

 島しょ県の沖縄は、円安に伴うエネルギーコスト上昇の影響を受けやすく、費用を価格に転嫁できないという中小企業の声も根強い。人手不足にも直面する中で、物価高に負けない賃上げを実現する環境にあるとは言い難い。

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 「金利のある世界」になれば、巨額の債務を抱える日本政府の利払いは増えていく。財政再建は待ったなしだ。

 短期のはずだった異次元緩和を続けた結果、財政の規律低下や円安など、国民生活を脅かす副作用も生じた。金利が上昇すれば、生活への影響も想定され、長期にわたり金利の低さに慣れている企業には、金融の引き締めに耐え得る体制づくりが求められる。

 アベノミクスの柱として政府が進めた異次元緩和からの転換である。責任ある政府のセーフティーネットが求められている。

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