【マイナス金利解除】県内企業、変革の時(3月20日)

 日銀のマイナス金利政策解除は、いずれ経営の重荷となりかねない。資金調達や債務返済の環境が厳しさを増すためだ。植田和男総裁は19日の記者会見で、政策運営の急変を避ける方針を強調したが、産業界は市場から選別、淘汰[とうた]される新たな時代のとば口に立ったとも言える。本県をはじめ地方の中小企業は事業全体を見直し、生産性を高め、独自技術に磨きをかける飛躍の契機とすべきだ。

 今春闘での高水準の賃上げが、政策解除の決定打となった。ただ、大手メーカーによる下請け業者への支払代金減額問題に象徴されるように、中小企業の賃上げにつながる価格転嫁は十分進んでいるとは言い難い。実質賃金は依然、低下傾向にある。金利上昇は円安を解消し、物価高を沈める可能性を秘める。弱含みの個人消費を刺激するなど利点も想定される。一方で、事業所の規模を超えて給与の上昇基調が広がらなければ格差は拡大し、17年ぶりの政策転換の意義が問われてくる。

 マイナス金利政策を柱とし、10年以上続いた大規模金融緩和策は政府の積極財政と相まって、本来なら市場から退場すべき企業を温存させたと指摘される。バブル崩壊時の1990年代前半から1万件超で推移した全国の企業倒産件数(負債総額1千万円以上、東京商工リサーチまとめ)は2014年以降、6千~9千件台で推移しているのが何よりの証左だろう。

 「金利のある世界」の復活は、「ぬるま湯」とも評された経営環境の転換を迫る。日本総研は今年1月、「賃金が3%、借入金利が2%上昇した場合、零細企業の経常利益は6割減少し、倒産件数は2割増加する」との試算を発表した。自己防衛の備えは待ったなしと言える。

 折しも、地方は人手不足と生産年齢人口の急激な先細りが深刻な課題となっている。国内の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟国で下位に位置する。効率的で収益性に優れた企業体質を築くのは急務だ。

 ニッチと呼ばれる「すき間分野」で独自技術を確立し、世界を股に業績を伸ばす中小企業が県内に複数存在する。成功事例を地場の企業に学び、戦略的な事業展開を打ち出し、次代の扉を開いていきたい。(菅野龍太)

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