3月上旬、宇都宮市の「親と子どもの居場所」の一つ「オリーブ」の会場となっている同市豊郷地区の公民館。午後6時半を回り、続々と小中学生とその親たちが集まってくる。
「お帰り~」
居場所の責任者藤野(ふじの)まゆ美(み)さん(59)らスタッフが温かく迎え入れる。2022年、同市の委託を受けたNPO法人「うつのみやオリーブ」が運営を始めた。
開設は週2回。利用者は家計のやりくりに悩む家庭だけでなく、ひとり親で育児のサポートを親類に頼れない家庭などさまざまだ。
ここでは子どもが通う学童保育を経由して利用に至るケースが多い。
同法人は周辺の小学校で学童保育も運営している。藤野さんをはじめ、居場所のスタッフは学童保育と兼務する人も少なくない。
◇ ◇
藤野さんには、約15年前の出来事が心残りとしてある。市内の学童保育に勤務していた当時、利用している小学校低学年の男の子の様子が気になっていた。
数少ない服を日々着回していたことに加え、学習が同学年の子どもに比べて遅れ、ひらがなが読めなかった。家で教わっている様子も感じられなかった。
意を決して親と面談すると、父親からこう打ち明けられた。
「子どもとどう関わったらいいか分からない」
聞くと、父親は自分が子どもの頃に親と遊んだ記憶がなく、子どもとの接し方に戸惑っていた。
「膝に乗せて一緒にテレビを見るだけでもいいんだよ」。藤野さんなりに精いっぱいのアドバイスをしたが、それ以上は踏み込めなかった。その後も男の子の様子に変化は見られず、直接手を差し伸べられないもどかしさが募った。
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「誰でも行けるところだよ。気分転換にどう?」
藤野さんは現在、学童保育で悩みを抱えていそうな親子に、それとなく居場所の利用を勧めている。
もともと学童保育は多くの子どもと接する分、「困っている子が目に付く」。加えて迎えに来る親とのやりとりもある。親子にとって、学童保育と兼務する顔なじみのスタッフがいる居場所は「来やすい」場だ。
訪れた親子は夕食を食べたり、遊んだりして過ごしている。
その中には、かつて学童保育で見かけた男の子のような、着古した服装をいつもしていた男児もいる。暴言を口にすることも多かった。
「そんなにつらかったんだね」。藤野さんはそう優しく声をかけ、じっくり寄り添ってきた。親ともコミュニケーションを図り、悩みを聞いたり、寄付された服を提供したりしている。
居場所がある今は、学童保育で見つけた気になる子どもに、そのまま手を差し伸べることができる。
藤野さんは、「少しずつこの子は落ち着いてきたかな」と感じている。