地域の「防災士」が力を合わせて~元消防署長の男性が連携組織を発足 「1000年に一度を経験した者の使命」 岩手・宮古市【復興への羅針盤】 

3月10日、岩手県宮古市で防災士同士の連携を図る組織が立ち上げられました。活動の先に見据えるのは、災害の知識や経験を後世に受け継ぐことです。

東日本大震災の発生から13年を前にした3月10日。宮古市の崎山地区に新たに組織されることになった「崎山地区防災士会」の設立総会が開かれました。
会に参加するのは、地区に住む防災士34人。市内で地区ごとの防災士会が結成されるのは初めてのことです。

防災士は、特定非営利活動法人日本防災士機構が認定するものです。岩手県内では2月末までに、3719人が認定を受けています。
宮古市は震災翌年の2012年から、地域の防災リーダー育成を目的に防災士の養成を進めてきました。受講料は全額市が負担し、毎年50人から100人のペースで養成を進めていて、2月末までに県内の市町村で最も多い536人の防災士が誕生しています。資格を取得した市民に対しては、市がスキルアップ講座を実施するなど、フォローアップを進めていますが、地区内での防災士の連携が課題となっていました。

崎山地区防災士会の設立について、自身も防災士で地域防災が専門の、岩手県立大学総合政策学部の杉安和也講師は次のように評価しています。

(杉安和也講師)
「散発的にたくさんいらっしゃった防災士の方々同士がお互いに連絡を取り合いながら一つの活動に向かっていくという状況は、必ずしもどこの地域でも整っていたかというとそうではなかった。団体が立ち上がったということは、県内でも参考にするべきいい先行事例ができたなという風に思います」

会の発起人であり、会長を務めるのは佐々木重光さんです。

(佐々木重光さん)
「防災士の団結をもって地域の防災力を高めていきたい。そういった趣旨で今回の崎山地区防災士会の設立に至った」

佐々木さんは元消防士です。台風10号が襲来した2016年当時は、被害が大きかった岩泉町の岩泉消防署で署長を務め、救助活動の陣頭指揮を執りました。
2018年からは岩泉町の危機管理監を3年間務め、町民に防災士の取得を促すなど、災害に強い地域づくりを進めてきました。

(佐々木重光さん)
「(東日本大震災の時)波はここまで来たと。ここら辺は1階がみんな床上浸水ですよ」

佐々木さんが生まれ育った崎山地区は、これまで幾度となく自然災害に見舞われてきました。
東日本大震災では津波で22人が犠牲となりました。沿岸部にあった中の浜キャンプ場は海抜21メートルの地点にまで津波が押し寄せ、現在は震災遺構施設として建物が被害を受けた当時のまま保存されています。

(佐々木重光さん)
「東日本大震災ではここの1階に津波が入った。それを直して住んだら台風で後ろからの土砂でやられた」

2019年の台風19号では、土石流により一部の住宅が被害に遭いました。崎山地区は海と山に囲まれ、常に災害のリスクと隣り合わせです。

佐々木さんが目指すのは、防災士同士が災害の知識や経験を日ごろから共有し、災害に備えるとともに次の世代へ教訓を受け継ぐことです。

(佐々木重光さん)
「1000年に1回、東日本大震災を経験したその世代の我々人類がやらなければ誰がやるんですかと思います。我々が経験したからこそ、これから来る1000年後、2000年後のため思い伝えていく義務があるかなと思います」

岩手県立大学の杉安講師も防災士会の今後の活動の広がりに期待を寄せています。

(杉安和也講師)
「崎山地区が被害を受けた時にほかの地区から手助けを受け入れられるような形とするために、あえてほかの団体とも連携していただいて、お互いに人員をやり取りできるようなネットワークととして構築していただくことが、宮古市全体としての地域防災力向上につながっていくんじゃないかなと期待をしている」

崎山地区防災士会は今後定期的に勉強会を開き、まずは災害についての知識を深めていく予定です。
様々な災害のリスクを抱える中、新たな連携で地域の防災力を高めることはますます重要になっています。

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