意外と忘れがち。災害時にこれだけは備えておきたい薬とポイントを薬剤師が解説

いつ発生するかわからない災害。
食料や懐中電灯など防災バッグを準備していても、「薬」の備えをしている人は多くはないのでは?しかし、災害時には、薬を処方してもらうのに時間がかかるなど、薬に関する困難な事例が多く知られています。たとえば、2024年1月に発生した能登地震で被災地への薬の供給が行われたのは、地震発生から1週間が経過してからのことでした。(※1)災害時の健康被害を少しでも抑えるために、薬の備えのポイントを薬剤師が解説します。

災害時に薬の備えがないときのリスク

災害時を想定した薬の備えは重要です。薬の備えをしていないと、いざ災害に見舞われたとき、さまざまな困りごとが起きるリスクがあります。

災害時は物流の大幅な乱れが起きやすく、病院や薬局が開いていたとしても薬を入手しにくい可能性があります。また、物流が再開しても、入手できる薬の種類が限られており、子ども用の薬が手に入らないなど、必要な薬が届くまでにさらに時間がかかるケースもあるでしょう。

災害時のリスクは、薬が入手できないだけではありません。

急に薬の服用を止めることによる、健康への影響も考えられます。普段服用している薬を急に止めると、薬の種類によってはリバウンド現象が起こる可能性があるのです。リバウンド現象とは、薬を急に止めた反動で、病気の症状が服用前よりも悪化してしまうことです。

たとえば、高血圧で血圧を下げる降圧薬を服用していた人が急に服用を止めると、血圧が反動的に上昇してしまいます。喘息を持っている人は、症状が悪化し発作を起こす可能性もあります。

懸念されるのは、リバウンド現象だけではありません。睡眠薬や抗不安薬を服用している人は、不眠や不安感が生じることがあります。これは離脱症状と呼ばれ、薬の服用を急に止めることによって生じる症状のひとつです。(※2)

緊急時でも可能な限り対応できるよう、家族の状況に応じた薬を備えておくことが重要です。

災害時に備える際のポイント

いざ災害時に備えて薬を準備しようとしても、何に気をつければいいのかわからない人も多いのではないでしょうか。ここでは、災害時に向けて薬を備える際のポイントを解説します。

普段から服用している薬は3〜7日分を確保する

普段から服用している薬がある場合は、災害時の備えとして、少なくとも3日分の薬は確保しておきましょう。災害発生直後は救急救命が優先されるため3日間程は通常診療できない場合があり、とくに薬の入手が困難になります。大規模な災害を想定し、7日分の薬を確保しているとより安心です。

薬ごとの保管条件の確認が必要ですが、普段使用しているカバンの中に入れておくと、外出先での被災にも備えられます。また、薬には使用期限があるため、災害時用に常備する薬を定期的に見直すことも重要です。ずっと同じ薬を入れっぱなしにするのではなく、新しい薬をもらったら古い薬は服用して新しい薬に入れ替えましょう。

お薬手帳を携帯する

災害時に薬を持っていなかった場合、お薬手帳があれば、薬を処方してもらう際に大いに役立ちます。災害時には停電が起きることもあり、かかりつけの病院や薬局に行けたとしても、これまでの処方履歴を確認できない可能性があります。

お薬手帳があれば、普段服用している薬をすぐに処方してもらえたり、もし同じ薬がなかったとしても、同じ効果のある薬を処方してもらったりできるでしょう。お薬手帳には、処方された薬の種類だけでなく、既往歴や副作用歴、アレルギー歴などを日頃から記録するのがおすすめです。災害時、適切に処方してもらうための重要な情報となります。

外出先での被災など、お薬手帳を持ち出せない場合を想定して、写真を撮ってスマートフォンに保存しておくのも有効です。アプリなど電子版のお薬手帳もあるため、使いやすい種類のものを選ぶといいでしょう。

常用薬以外に備えておきたい薬の種類

日常的に服用している薬がない場合でも、災害への備えとして、以下のように汎用性の高い薬を備えておきましょう。

<災害時に備えておくべき薬>
・解熱鎮痛剤
・総合風邪薬
・消毒薬
・胃腸薬

普段服用している薬だけではなく上記のような薬を備えておくと、避難中の急な体調不良にも対応しやすくなります。大人用だけではなく、子ども用の薬も備えておくことが大切です。
また、上記以外にも、夏であれば虫除け剤や虫刺され用の薬、春や秋であれば花粉やアレルギー対策の薬を備えておくと便利です。

災害時に常用薬がなくなった場合の対処法

災害時、普段から服用していた薬の備蓄がなくなった場合、まずはかかりつけ医や薬局で薬を入手ができるか相談しましょう。非常時に落ち着いて対処するためにも、かかりつけ医や近くの薬局などの連絡先をスマーフォンや普段身につけている手帳などに控えておくと便利です。

なお、災害の規模によっては、病院や薬局へ連絡が取れなかったり自宅から離れた避難所に避難したりする場合も想定されます。その場合には、避難所の救護所や管理スタッフへ相談しましょう。相談する際、お薬手帳があるとスムーズです。

薬の備蓄で災害時の健康被害を最小限に抑えよう

災害時には、通常の診療が受けられなかったり避難所へ避難していたりなど、さまざまな要因により薬を入手することが難しくなります。一方で、災害による生活環境の変化から体調を崩し薬が必要になったり、普段から服用している薬を急に止めたことによるリバウンド現象や離脱症状によって体調を崩したりしてしまう可能性もあります。

そんな非常時に対応するために、日頃から災害時の備えとして薬を準備しておくことが重要です。3〜7日分の薬の備えや、お薬手帳の記入や場所の把握など、普段から取り組んでおくことで、もしものときに家族の健康を支えてくれる備えとなるでしょう。

<参考文献>

※1 時事ドットコム「「いつもの薬」高齢者ら安堵 調剤薬局車が活動開始―能登地震」
※2 公益社団法人日本薬学会「健康豆知識 万全ですか? お薬の災害対策」

PROFILE

あんしん漢方薬剤師
山形 ゆかり

薬剤師・薬膳アドバイザー・フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ入り、牛角・吉野家他薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信するMedical Health -メディヘルス-Youtubeチャンネルで簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」でも薬剤師としてサポートを行う。

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