矜持の外交(3月21日)

 「マンガニッポン」の一つの頂点と言える。異色の大作「沈黙の艦隊」ドラマ版が動画配信され、話題を呼ぶ。国防、世界平和の重みを考えさせる▼海上自衛隊員が、日米共同で建造した原子力潜水艦を乗っ取った。新たな世界秩序を掲げ、独立国家を名乗る。対応に奔走する総理役を、俳優笹野高史さんが味わい深く演じた。見かけは頼りないが、胆力を秘めている。武力制圧に傾く米国大統領を相手に、平和的解決を求めて一歩も引かない。毅然[きぜん]とした姿は、政治家の理想像でもあろう▼現実の国際社会に漂う暗雲は、厚みを増している。北朝鮮からまた、弾道ミサイルが飛んだ。スウェーデンのNATO加盟はロシアを刺激し、欧州に新たな火種が生まれるとの見方も。経済不振の中国の動向はより不透明になり、台湾海峡の緊張は解けない。食料、資源の供給がぐらつけば、県民の暮らしも揺らぐ。遠い海の向こうの話で済まない▼今秋の米国大統領選は、前回と同じ顔触れになるという。いずれが勝利しても、「世界の警察」の存在感は、さらにかすんでゆきそうだ。各国のリーダーよ、混迷の予感を前に「沈黙」はご法度。融和を目指し、今こそ矜持[きょうじ]を曲げぬ外交を。<2024.3・21>

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