『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』ジェーン・カンピオン監督に映画ファンがインタビュー!【Director’s Interview Vol.392】

映画ファンから寄せられた質問にジェーン・カンピオン監督が回答!『ピアノ・レッスン』の壮大なロケーションやキャスティングの裏側、そして映画監督という道を選んだきっかけは?

3月22日(金)より全国での公開が始まる映画『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』。日本公開から30周年を記念した今回の劇場公開を前に、ジェーン・カンピオン監督へ映画ファンからのインタビューが実現!皆様から寄せられた質問に監督本人にお答えいただきました。カンヌ国際映画祭で女性監督初となるパルム・ドールを本作で受賞し、アカデミー賞®では脚本賞も受賞。その後も映画界を牽引し続けるカンピオン監督の魅力に迫るインタビューです。

『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』あらすじ

19世紀半ば、ニュージーランドの孤島。エイダ(ホリー・ハンター)は父親の決めた相手と結婚するために、娘のフロラ(アンナ・パキン)と1台のピアノと共にスコットランドからやって来る。「6歳で話すことをやめた」エイダにとって、ピアノは声の代わりだった。ところが、夫になるスチュアート(サム・ニール)はピアノを重すぎると海辺に置き去りにし、先住民との通訳を務めるベインズ(ハーヴェイ・カイテル)の土地と交換してしまう。エイダに惹かれたベインズは、ピアノ1回のレッスンにつき鍵盤を1つ返すと提案する。渋々受け入れるエイダだったが、レッスンを重ねるうちに彼女も思わぬ感情を抱き始める――。

質問その1:この映画は人生でナンバー1の作品です。映像も音楽も物語もすべてに引き込まれました。舞台となった海岸と羊歯(シダ)の森が深く印象に残っていますが、これは監督のイメージに最もふさわしい場所を新たに探したのでしょうか?それとも元々この場所をご存じだったのでしょうか?

カンピオン:私は21歳の時にニュージーランドを出て、イギリスでアートを勉強していたんです。イギリスにいる間はニュージーランドを恋しく思っていました。特に、ご質問されている方がおっしゃっていた羊歯の森や草。その中にいると、非常に暗くてミステリアスな雰囲気がする。また、ニュージーランドにたくさんあるビーチもとても恋しかったです。舞台となった黒い砂のカレカレビーチはオークランドの西海岸にあるのですが、ロケハンで行ったときに一目惚れしました。なにか奇妙で力強いものを感じたんです。私はエミリー・ブロンテの「嵐が丘」に強く影響を受けたわけですが、「嵐が丘」の舞台はヨークシャーの荒野で普通とは違う”強さ”がある場所です。ニュージーランドにもそれと同じように、土地の強い力を感じます。私が生まれ育った愛する場所でもありますし、あなたがそこに、私がそこにいたいと本能的に思わせる、そういうものを感じさせる場所だと思います。

『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』©1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000

質問その2:主人公エイダを大きく変えていくべインズ役のハーヴェイ・カイテルについて。30年前のインタビューで「彼の起用は監督の閃きだった」というプロデューサー、ジャン・チャップマンさんの記事を読んだことがあります。当時、ハーヴェイ・カイテルのどんなところに可能性を感じたのでしょうか。彼の魅力や印象的なことがあれば教えてください。

カンピオン:『タクシードライバー』(76)や『ミーン・ストリート』(73)で凄いなと思っていました。当時は非常にタフガイなイメージが強かったので、ベインズ役ができるかどうかは判断できなかったのですが、”ヴィジュアリスト”と称されるリドリー・スコット作品での演技を見て、「いいかも」と思いました。閃きというよりも、ずっと彼のことを考えていました。

ちょうどその頃は彼自身の転機となるような作品『レザボア・ドッグス』(92)でMr.ホワイトを演じていましたね。彼に脚本を送ったらとても気に入ってくれて、実際に会ったときには「この脚本が大好き」と涙を流していました。私たちニュージーランド人は普段から感情をあまり外に見せませんし、人前で涙を流すなどありえない。そんな彼の姿を見て少し居心地が悪くなったことを覚えています。そして、「僕はこの役をどうしてもやりたいけど、あなたが僕にやってほしいかはわからない」と続けました。その言葉を聞いて私は、恥ずかしく思いながら少し困惑しつつも「私はあなたにやってもらいたいです」と答えたんです。彼の独特な味わいをこの映画に取り入れることができてすごくラッキーでしたし、現在でも彼が親愛なる友人でいることも、とてもラッキーなことだと思います。

『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』©1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000

質問その3:映画作りには脚本開発、撮影準備、撮影現場、ポスプロなど、多くの段階がありますが、その中でも一番好きな作業は何でしょうか。

カンピオン:脚本を書くのは大好きです。リハーサルも好きですね。時々撮影も好き、編集も楽しいこともあるけれど、まぁ、でも、つらいこともありますよ。

質問その4:映画監督を志すきっかけになった映画を教えてください。

カンピオン:たくさんあります。「すごく好きだ」と思うと同時に「私にはこんなすごい映画は撮れない」という相反する気持ちがあるんです。そういう意味で一つだけを選ぶことはできないのですが、「私もできるかもしれない」と思わせてくれたのがジリアン・アームストロング監督の『わが青春の輝き』(79)という映画です。彼女は私の少し前に映画学校を出た方なのですが、その頃、女性映画監督はあまりいませんでした。違う世代ではあるもののとても良い映画だったので、もしかしたら私もできるかもしれないと思わせてくれました。

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監督/脚本:ジェーン・カンピオン

1954年生まれ、ニュージーランド・ウェリントン出身。ウェリントンのヴィクトリア大学で人類学を学び、ロンドンのチェルシー・スクール・オブ・アーツとシドニー芸術大学で絵画を学ぶ。その後、オーストラリア・フィルム&テレビ・スクール在学中に製作した短編映画『ピール』(82)が86年のカンヌ国際映画祭短編映画部門でパルム・ドールを受賞。89年には初の長編映画『スウィーティー』がカンヌ国際映画祭に正式出品された。90年、『エンジェル・アット・マイ・テーブル』がヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞。本作は93年カンヌ国際映画祭で女性監督初のパルム・ドールに輝いた他、アカデミー賞®脚本賞を受賞するなど、各国の映画賞を総なめにする。近年では、ベネディクト・カンバーバッチを主演に迎えた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)、第94回アカデミー賞®など、多数の監督賞を受賞した。14年のカンヌ国際映画祭では女性監督として初となるコンペティション部門の審査委員長を務めた。その他の代表作に、『ある貴婦人の肖像』(96)、『ホーリー・スモーク』(99)、『イン・ザ・カット』(03)、『ブライト・スター』(09)など。

構成:CINEMORE編集部

『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』

3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

配給:カルチュア・パブリッシャーズ

©1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000

監督写真:Photo by Grant Matthews courtesy of Netflix Inc.

© 太陽企画株式会社