家での「危ない!」を防ぐために親が知っておきたい、子どもの体の特徴と行動パターン【安全教育の専門家】

「おうちでヒヤッ でない、あけない、のぼらない~子どもの身をまもるための本~」文・監修/清永奈穂、絵/石塚ワカメ(岩﨑書店)より

家庭内でも起きがちな子どもの事故・けが。思いもよらない「危ない!」を防ぐためにはどうしたらいいのでしょうか? 大人が子どもを守るために知っておきたいこと、できる対策について、安全教育の専門家で、自治体や幼稚園、保育園、小学校などで講習会を行っている清永奈穂先生に聞きました。

“不慮の事故”は家庭内でも起きている!

図作成/たまひよONLINE編集部

――子どもの事故って、そんなに多いのでしょうか?

清永先生(以下敬称略) 厚生労働省や消費者庁の資料によると、子どもが亡くなる原因は、0歳代は先天的な病気によるものが多いのですが、1歳を超えると不慮の事故が増えていることがわかります。「不慮の事故」と聞くと、交通事故や水難事故のような、屋外で起こる事故をイメージする人が多いと思います。もちろんそのような事故も含まれますが、実は家庭内でも多くの不慮の事故は起きているんです。

命にかかわるような大きな事故ではなくても、家庭内で子どもが転んで頭をぶつけたり、おふろで子どもが溺れそうになったりしてヒヤリとした体験がある人は少なくないのではないでしょうか。

家庭内の子どもの事故で多いのは、窒息、溺水、転落

図作成/たまひよONLINE編集部

――子どもの事故はどんなものが多いのでしょうか?

清永 どんな事故が多いのかは、年齢によって変わります。
0歳代で圧倒的に多いのが窒息です。ベッドの柵とマットレスの間に頭が挟まるなどのベッド内での事故、母乳やミルク、離乳食の吐き戻しによる誤えんやボールなどの小さなおもちゃを誤って口に入れたことによる窒息が多いです。

1歳以上になると、急に水の事故が増えます。水の事故で多いのが、自宅のおふろで溺れるケース。子どもは大人が思うよりも静かに溺れます。ママやパパが目が届かない状態で、赤ちゃんを浴槽内に一人にするのは絶対にやめて。4歳ぐらいまではおふろの浴槽に5㎝でも水が残っていたら溺れる可能性があることを知っておきましょう。
もし、災害への備えとして残し湯をする場合は、子どもが浴槽に入り込まないようにおふろ場には鍵をかける、浴槽のふたは子どもの力では動かせないくらい重たいものにするといった対策が不可欠です。

件数自体は最近減ってきていますが、ベランダなどからの転落事故には要注意。椅子や観葉植物の鉢などを置いていると、その上にのぼってベランダの柵を乗り越えてしまうことも。ベランダからの転落事故は、好奇心旺盛で、鍵を開けられるようになる3歳~4歳ごろ急に多くなります。

子どもは好奇心旺盛で経験不足。大人が「普通はこんなことしない」と思うようなこともやりがち

「実はイギリスでは安全について学べる体験施設があるんです」と清永先生。「家庭内で起こりがちな危ない場面がセッティングされていて、何が危ないかを子ども自ら考えて学ぶことができる作りになっています」写真提供/清永奈穂先生

――どうして子どもは「危ない!」という行動をするのでしょうか?

清永 子どもと大人では「危ない!」という感覚に大きな違いがあります。また、子どもならではの体の特徴や行動パターンを事前に知っておくことで、子どもの「危ない!」にいち早く気づくことができるでしょう。

まず、子どもの視野は大人よりも狭いため周りに注意が行き届かず、ぶつかったり、つまずいたり、滑ったりして、事故につながりやすいです。大人の視野は左右150度に対し、子どもは90度、上下だと大人が120度に対し、子どもは70度と狭く、大人と同じ視野になるのは10歳ぐらいだと言われています。

次に、頭が重く、足腰が弱いのも子どもの特徴の一つです。重心が高く、体も体幹もしっかりしていないので、すぐバランスを崩し、転んだり、高さのあるところから落ちたり、簡単に勢いがつきやすいんです。たとえば、「ベランダのベンチにのぼって、下の道路を見ようとする」というとき、大人であれば「手で柵をつかんでいたら体勢をキープできてそれほど危なくない」というようなケースであっても、子どもは頭が重いので、のぞきこんだときに体勢を崩して頭から落ちやすいということがあるのです。

また、皮膚が大人よりも薄いことも知っておきましょう。ここでとくに注意したいのは、やけどです。大人から見ると「これぐらい大丈夫かな」と感じる程度のやけどであっても、子どもの場合は皮膚の奥深くにまでダメージが及んでいるケースも。同じく、すり傷にも注意が必要です。

そして、子どもって大人のまねをするのが好きですよね。子どもは「できる」と思ってチャンレジするわけですが、大人のようにはできなくて「危ない!」となりやすいです。子どもの性格はそれぞれですし個人差はありますが、一般的にはじっとしていることが苦手で、飛び跳ねまわることが大好きな子が多くいますよね。ちょろちょろ動いて何かにぶつかる、ソファやベッドをぴょんぴょんジャンプして落下するといった事故も起こりがちです。

最後に、子どもは大人に比べて危険に対する経験の量が圧倒的に少ないです。好奇心が強く、怖いもの知らずなのも子どもの特徴。「こうしたら危ない」という事例の経験が不足しているため、察知ができないことが多いです。狭いところが好きなのも子どもならではだと思います。すみっこや奥まったところなどかくれんぼできそうな場所になぜか入りたがりますよね。ドラム式の洗濯機などに入り込んで窒息する事故にも注意しましょう。

「目を離さない」だけでは防げないのが子どもの事故。家族で協力しながら、家庭内の安全を考えて

「訪問した保育園で撮影した柵の様子。柵の土台部分や上部に、スポンジが巻いてあります。転倒したときなどに、意外にぶつけやすい場所なんです」写真提供/清永奈穂先生

――家庭内の事故防止のために、とくに注意したいのは具体的にどんなことでしょうか?

清永 0~2歳のころは危ないものは子どもから遠ざけるのが基本です。子どもの手が届くところに危ないものは置かない、危険な場所に入れないように鍵をかける、ガードを設置するなどを徹底しましょう。意外なものとして、電気コードやビニール袋も危険です。首にコードを巻いたり、ビニール袋をかぶったりなどの窒息事故が起きています。

テーブルなど子どもが頭をぶつけやすいところには「危ない」とわかるようにシールやマスキングテープなどを貼って印をつけておくといいです。子どもはどんどん身長が伸びるので、時々、近くに立たせてみてどのあたりの高さに頭部がくるかチェックしてください。

昔から言われていることですが、歯ブラシや箸など長いものをくわえて歩かないことも教えましょう。言葉を理解できないうちは、歯磨きはママ・パパのひざにゴロンして磨く、箸は「ごちそうさま」したらすぐ机に置くかママ・パパに渡すなど習慣づけするといいです。

――事故防止を考えたときに、親はどんな心構えで子どもと接するといいのでしょうか?

清永 事故防止に気を配ることは大切です。一方で何かを見つけて触ったり、試したりといったことは子どもの発達においては欠かせないことです。「危ないからダメ!」とすべて禁止して行動を制限するのではなく、命にかかわる事故が起きないように環境を整えながら、いろいろなことにチャレンジさせてあげたいですね。

個人差がありますが、子どもが危険なこと・ものを理解し、自分である程度危険を回避できるようになるのが10歳ごろです。それまではママ・パパは子どもの好奇心や冒険心を「ダメ」と無理に押さえつけずに、安全かつ子どもが大いに飛んだり跳ねたり触ったりができる環境づくりを心がけることが大切です。

子どもを2人以上育てている家庭の場合、どうしても年下の子に注意が向きがちですが、上の子下の子関係なく、口の中に入れては危ないものや、上から落ちてきたら危ないもの、転落したら危ない高いところなどには十分に気をつけるようにしましょう。

大人目線でいると、子どもにとっての危険なもの・ことに気づきにくいです。子どもが1歳ならママ・パパも親になって1歳です。大人も子ども目線になり、子どもと一緒に一から安全な環境とは何かを学んでほしいと思います。

監修/清永奈穂先生

取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部

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何が危ないかは子どもの成長に合わせて変わっていきます。ママ・パパは子どもの成長の様子をよく観察して、「もうここまで手が届くようになったなら、ここは片付けよう」「今すごく好奇心旺盛だからこれを置いておくと触っちゃうかもな…」と、その都度環境を改善するといいでしょう。

●記事の内容は2024年3月の情報で、現在と異なる場合があります。

『おうちでヒヤッ でない、あけない、のぼらない 子どもの身をまもるための本』

家庭で起きがちな事故にどう注意するといいのか、親子で楽しく読みながら学べる絵本。清永奈穂 文・監修 石塚ワカメ 絵/1430円(岩崎書店)

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