「さん付け運動」(3月22日)

 「さん付け運動」は1990年代、大企業を中心に始まった。上司を役職ではなく、「さん」で呼ぶ。連帯感を強めるためだった。最近はハラスメント対策で導入する例もある▼広辞苑を引けば、さんは「様」から転じたそうだ。敬意の念が薄まる感はあるが、親近感は増してくる。江戸時代に普及し、「お医者さん」「魚屋さん」など市井の職業に広がった。今は性の区別を可能な限り取り払う時代。若い男性への「君」は、影を潜めつつあるとか▼海を越えた「サン」なら、言わずと知れた「オオタニサン」。米大リーグの大谷翔平選手が本塁打を放った際、アナウンサーが実況したのが始まりという。四国の大谷山では、「オオタニサンドイッチ」がイベントで販売され、人気だったと伝わる。「さん付け」ならぬ、勇名への「ひも付け運動」も盛んなようだ▼呼び方は時代にひも付いて変わってゆくのだろう。とは思いつつ、果たしてしっくりくるかどうか…。少子化が進み、子どもがいつか「様」と呼ばれるかも、と十数年前の小欄にあった。どの時代も、子どもは社会の宝に違いない。とはいえ、様付けとなれば、遊び盛りの身には、はなはだ窮屈かもしれない。<2024.3・22>

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