気管挿管器具の特許を取得 カメラ搭載 救命率向上に貢献 福島県内の医師、企業が共同開発

 福島医大といわき市医療センターの医師、医療機器製造などを手がける協栄テクニカ(福島県いわき市)は共同で、安全に気管挿管できる新たな器具を開発し特許を取得した。気管挿管は呼吸が停止した救急患者らに人工呼吸器をつなぐ際に必要になる。これまで目視が中心だったが、器具の先端に搭載したカメラの映像をモニターで確認しながら作業できるようになる。扱いやすくなることで、一刻を争う救急現場などで医療事故防止につながると期待される。福島医大が21日、発表した。

 開発に携わった医師は、福島医大災害医療支援講座講師の赤津賢彦医師、いわき市医療センターがん集学的治療センター長の本多つよし医師。従来の気管挿管と新しい挿管方法は【図】の通り。従来は喉頭鏡と呼ばれる器具を患者の口に差し込み、気管の入り口を確保。型崩れを防ぐための棒を通した気管チューブを気管に入れて棒を引き抜き、人工呼吸器をつないで酸素を送る。医師、救急救命士の技量や経験に左右されるため、食道への誤挿管の危険性や、喉頭鏡で口を大きく開ける時に口腔(こうくう)内を傷付けやすいなどの課題があった。

 今回開発した器具はカメラ付きで、経験が浅い医師らもモニターの映像を見ながら簡単に挿管できる。喉頭鏡がなくても使える。挿入部は適度な硬さと軟らかさがあり、気管に入るまではチューブの形を保つ棒の役割を担い、気管に入った後は内壁に合わせて変形する特長がある。

 扱いやすい器具は医療現場から要望が多かったという。協栄テクニカの開発担当者は「器具の形状や構造の検討に苦労した。今後は臨床試験などを通して安全性の確認を進め、実用化したい」としている。福島イノベーション・コースト構想推進機構、県発明協会の支援を受けた。

 気管挿管を巡っては食道への誤挿管が原因で患者が死亡するなどの重大な医療事故が起きている。本多医師によると、県内では数年前に帝王切開手術の全身麻酔後に呼吸困難になった患者が、誤った気管挿管が原因で死亡した。赤津医師は「この器具を使えば、誤挿管は限りなくゼロになる。熟練の技術や経験が問われなくなれば、医師の働き方改革にもつながる」と話す。

 協栄テクニカは2029年ごろの製品化を目指しており、量産化に向けて賛同する医療機関や企業を募っている。医療現場や救急救命など向けの展開を想定している。本多医師は「全国の救急車やドクターヘリに載せ、救命率向上に貢献したい」としている。

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