発達障害児と向き合う ストレス脳機能に影響も 門田准教授に聞く 希望って何ですか 第3章特集―あるべき笑顔求め―

門田行史氏

 親子を支援する県内の居場所では「落ち着きがない」「感情のコントロールが難しい」など、発達障害に類似した行動を示す子どもの姿も見られる。長年、発達障害児らへのケアに携わってきた自治医大とちぎ子ども医療センター医師、門田行史(もんでんゆきふみ)同大准教授(小児科学)に、発症のメカニズムや兆候のある子どもたちへの望ましい関わり方などを聞いた。

 

 発達障害と指摘される子どもはもともと、生まれながらに何らかの特性を持っていることがほとんどだ。最初から特性が強い子どももいる一方、遺伝的要因に加えて経済問題、家族背景、虐待などの環境的要因が組み合わさり、潜在的なものが強く発症するケースも少なくない。

 一時的ではあるが、例えば震災で被災した子どもに「落ち着きがなくなる」など発達障害に似た行動が出ることもある。いずれにしても、強いストレスは脳機能に影響する可能性があるということだ。

■「扁桃体」の動き

 簡単に仕組みを説明すると、脳はストレスに対し、まず「戦う・逃げる」など動物的に危機に対処しようとする「扁桃(へんとう)体」が働く。落ち着いてくると「前頭前野」が冷静に物事を考えていく。

 ただ、劣悪な状況に長く置かれストレスを感じ続けると扁桃体が過活動になり、だんだん疲弊してくる。そうすると危機に対処することを諦め、ぼーっとしたり、より悪化すると心と体が乖離(かいり)し、意思に関係なく体が勝手に動いたりするようになってしまう。

 特性のある子どもであれば、もともとの衝動性や不注意症状が強まる。さらに感情の制御ができなくなったり、睡眠障害が引き起こされたりもする。そうすると発達障害の診断基準にも含まれる「社会への適応」は当然、難しくなる。

 現代は子育てテクニックや「子どもはこうあるべきだ」という情報もあふれている。スマートフォンなどで親がそれを知ることも容易で「うちの子はできていない」となれば、しつけは厳しくなり、さらに子どもがストレスを受ける悪循環に陥ってしまうことも考えられる。

 臨床現場でも、発達障害を治療する人が増えている実感がある。その多くは潜在的に何らかの特性を持っていた人たちだ。

 増加の原因を検証するのは非常に難しいが、例えばテレビやインターネットなど情報技術が発達し、ネガティブな情報に触れる機会が増えるなど、昔に比べ脳にストレスがかかりやすい環境、社会になっていることは言えるかもしれない。

■安全地帯が必要

 子どもの発達障害の症状が悪化した場合の親や周囲のアプローチとしては、その子どもが「いつ、どこで」ストレスを感じているかを、まず把握することだ。

 扁桃体の動きは本能的で、理屈で考えられるものではない。だから「人混みで不安を感じたら、静かな場所に移動する」というのと同じで、ストレスを感じる対象から逃げられるような環境調整を図ることが求められる。

 それは、子どもにとっての「安全地帯」をつくるということ。例えば家族といる時にストレスを感じるのであれば、そこにいる時間を減らすために放課後等デイサービスや、記事に出てくる「子どもの居場所」を利用することなども手だてになり得る。

 その人にとって心地の良い場所なら、スーパーでも学校でもどこでも良い。オンライン空間にも、そういった居場所を求めることができる可能性はある。

 長期的には、安心できる場所を複数用意することが理想だ。一日中ストレスにさらされる環境から脱する術があれば人間はある程度、踏ん張ることができるようだ。

 子どもの支援者をはじめ、周囲の人間は(発達障害児に)どう向き合えばいいか悩むこともあるはず。

 ただ、正面から向き合わなくとも「何かリラックスしてやれることはあるか」と一緒に心地よい空間について考えたり、「こういうコミュニティーもあるよ」と紹介したりするだけでも、症状を和らげるための一つの関わり方になるのではないか。

◆自治医大とちぎ子ども医療センター医師 門田行史准教授◆

 2002年に北里大医学部を卒業後、自治医大小児科入局。17年に同大小児科准教授となり、22年から中央大研究機構客員教授を兼務。小児科学会専門医、小児心身医学会認定医、日本小児神経学会評議員、日本赤ちゃん学会理事、日本ADHD学会理事・事務局長なども務める。

 

◇「受け入れ、褒めて接して」 宇都宮で支援者向け研修◇

 宇都宮市は1月下旬、市内の子どもが利用するさまざまな形態の居場所スタッフ向けに、発達障害の子どもと保護者への支援について学ぶ研修を行った。居場所の運営者から、発達障害の特性のある子どもとの接し方に悩む声が多く上がっていることから実施した。

 同市は、「親と子どもの居場所」や子ども食堂などを「宮っこの居場所」と総称している。

 研修は、同市役所で開催した「宮っこの居場所登録団体ネットワーク会議」の中で行われ、関係者約30人が出席した。講師は県発達障害者支援センター「ふぉーゆう」の鈴木敦子(すずきあつこ)さんが務めた。

 鈴木さんは、始めに発達障害である自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の特性について解説し、特性に配慮した支援をすることを求めた。

 具体的には(1)気になる刺激を少なくするために間仕切りを活用する(2)具体的に話したり、図を使ったりして分かりやすく伝える(3)良い所に注目してほめる-などの対応方法を紹介した。

 一方で、虐待などの危機的な状況の中で養育されると、発達障害でなくても、落ち着きがないなどの発達障害の特性と似た行動が見られるケースがあることも説明した。

 鈴木さんは「発達障害の方の支援では周囲の人たちが関わり方を工夫し、その特性を受け入れること。ほめることで自己肯定感を高めることが大切」と訴えた。

門田行史氏
門田行史氏
居場所関係者が発達障害のある子どもへの支援について学んだ会議

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