進む「居場所づくり」 本音引き出す関係性築く 安部教授に聞く 希望って何ですか 第3章特集ーあるべき笑顔を求めー

安部芳絵氏

 県内だけでなく、全国的にもその数と機能を増やしている「子どもの居場所」。多様な居場所づくりが求められている背景、課題は何か。こども家庭庁こども家庭審議会こどもの居場所部会委員で、工学院大教育推進機構の安部芳絵(あべよしえ)教授に聞いた。

 

 子どもの居場所は、人によってイメージするものが異なるほど多種多様になっている。そのため、子どもの居場所づくりに対する国としての一定の考え方を示すよう指針が策定された。

 子どもにとっての居場所は、第一に家庭、第二に学校がある。学校も家庭も自分の居場所だと思えない子にとって「第三の居場所」が必要になる。大人は趣味などで自分の居場所を見つけられるが、子ども一人では難しい。

■声を聞き考える

 指針では、子ども自身が居場所だと感じられればどこでも子どもの居場所になり得ることが示された。大人が子どものことを思って居場所をつくることが多いが、子どもにとっての居場所にはなっていないことがある。子どもの声を聞き、子どもの視点に立ち、子どもと一緒に居場所づくりをしていくことが大切だ。

 特に経済的に困難な家庭で育つ子どもたちは、自分がしたいと思っていることがあっても、お金がかかるため「親が困るかもしれない」と思って諦めていることがある。言いたいことがあってもそれを諦める経験が積み重なると、どうしても思いを声に出せなくなる。それは力を奪われている状態だと思う。

 まずは子どもが安心できる場所をつくり、「この人なら言ってもいいかな」と思える関係を築いていくこと。そして声を聞けたら、それを実現するためにどうするかを大人側も子どもと一緒に考えていくこと。こうした経験の積み重ねがとても大事だ。それが子どもとともに居場所をつくっていくことにつながる。

 どんな子どもにも声はある。意見を理路整然と言えなくても、気持ちや快、不快はある。子どもが助けてほしくても「助けて」と言えない場合は問題行動として出てくることもある。その子の背景に貧困などの大きな課題があるのだとしたら、その子自身の力ではどうすることもできない。居場所づくりをされている方々はその前提知識を有していることが必要だと思う。

 子どもたちの中には親のことをとても心配して「居場所に行ってみたいけど、自分が行ったら親はどうなるんだろう」と考えている子がいる。子どもの権利を保障していくには、子どもだけでなく、周りにいる親も一緒にサポートしていくことが大事になる。

■学童保育の役割

 居場所というと子ども食堂など民間のものがたくさんあるが、公的な児童館や放課後児童クラブ(学童保育)の役割も非常に大きい。特に児童館は誰でも来られる施設。たくさん来る子どもたちの中に福祉的な課題を抱えた子どももいる。その子の状況を把握し、より良い支援につなげる役割を担っている。

 栃木県は児童館が少ないので、学童保育が非常に大事になってくる。学童保育の先生たちは遊びを通して子どもの様子をよく見ている。いつもと遊び方が違うなどの変化を察知して話を聞くことで、家庭の急変を知ることもある。

 一方、学童保育の利用は小学生まで。中高生世代の居場所が少ない。これは今まで社会問題化されてこなかった。新型コロナウイルス禍で学校に行けなくなるなどし、居場所がないことに気づき始めた。

 児童館は0~18歳までの全ての子どもが利用できる施設だが、中高生向けに開館しているところは少ない。学校や部活帰りの生徒向けに開館時間を延ばすなどの対応があれば、中高生の居場所になる。

 こどもの居場所部会では3月上旬の会議で専門委員会を設置し、「児童館ガイドライン」と「放課後児童クラブ運営指針」の見直しに着手することになった。子どもの意見反映や居場所機能、中高生への対応などの視点から検討される。

■重なり合う困難

 子どもの居場所が必要とされる背景に、児童虐待認知件数や不登校児童生徒の増加があることは誰も異論がないと思う。しかし、子どもが抱える困難を一つ一つ別の問題として捉えていて、重なり合っているという意識はあまりないのではないか。

 例えば、経済的な困難を抱えた家庭の子どもが学校に行きづらいという悩みを持っていたとして、背景には他の子が入っている部活ができないとか、塾に行くのが前提で学校の勉強についていけないとか、さまざまな要素が絡み合っているはずだ。

 子どもの「助けて」や「つらい」という気持ちは個人の気持ちではあるが、社会構造の問題だ。その子が努力するための土台が整っていない。居場所が増えていくことは大切だが、それだけではだめで、社会の側を変えていく必要がある。

◆工学院大教育推進機構 安部芳絵教授◆

 早稲田大大学院博士後期課程中退、博士(文学)。工学院大准教授などを経て2023年から現職。研究テーマは子ども環境学、子どもの権利条約、災害と子ども支援など。

安部芳絵氏
安部芳絵氏

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