「どのように乗り切るのがいいでしょうか」
今月上旬、宇都宮市に住む果歩(かほ)さん(36)=仮名=は、スマートフォン上でLINE(ライン)メッセージの送信ボタンを押した。
4歳の長男と1歳の長女を育てる果歩さんは、離婚に向け別居する「実質的ひとり親」になってもうすぐ2年。夫から支払われる生活費と児童手当を合わせた月12万円ほどで暮らす。
苦しい生活に不安が拭えず、知人の紹介で知ったNPO法人「ぱんだのしっぽ」に助けを求めた。
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同法人は市内を中心にひとり親家庭を支援している。活動のきっかけは、理事長小川達也(おがわたつや)さん(52)の「恩返し」の思いからだ。
自身もシングルファーザーで、15年前に小学5年生の長男と共に埼玉県から日光市へ越してきた。地域の人は長男の習い事の送迎など、子育てを温かくサポートしてくれた。
子育てが一段落した2018年。「今度は支える番」と、日光市内で民生委員らと困窮家庭に食料を届ける活動を始めた。20年にはNPO法人化。人口規模などから、よりニーズが高そうな宇都宮市を中心に活動することに決めた。
課題は困っている家庭をどう見つけ、つながるか。
人の目が気になってフードバンクに行けない。行政の窓口に行ってみたものの、たらい回しにされて嫌な思いをした-。そうして助けを求めることを諦めてしまう人は多い。
電話では悩みを口に出さなければならず、対面に近い心理的なハードルがある。少しでも気軽に連絡してもらえるよう、相談を受け付けるツールは子育て世代に身近なLINEにした。
メールとは違い「既読」がつき、「読んでくれた安心感」につながる。できるだけリアルタイムで連絡を取れるよう24時間365日、対応することにした。
新型コロナウイルス禍真っただ中に始めた活動への反応は、想像以上。市内だけでなく全国から“SOSメッセージ”が届いた。現在は市内を中心に約70世帯とやりとりをし、必要な支援を届けている。
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今月15日夜、小川さんが果歩さんの求めに応じて家を訪れた。食料やおむつなどを届け、玄関先で悩みを聞いた。「困ったことがあったら、いつでもLINEしてくださいね」。小川さんは優しく語りかけた。
「孤立を深めているひとり親は多い」。活動する中で得た小川さんの実感だ。
昨年、支援している世帯にLINEで「ひとり親同士で情報交換する機会がほしいか」尋ねると、約6割が参加を拒んだ。
浮かび上がったのは「支援がほしくても、大勢の中に身を置くのは負担」と感じる相談者の姿。手を離すと見えなくなってしまうから、小川さんはLINEという細い糸でも相談者とつながり続けている。
「勇気を出して連絡してくれたんだから、もう一人じゃないんだよ」。そう背中を支えている。