文化財の不明数栃木県が全国最多 家庭に眠る文化財を守るには

とちぎテレビ

実は県が指定する文化財の数ですが、栃木県は全国第2位です。理由は一説によると、日光東照宮の造営のとき、多くの職人が移り住んだことが影響しているのではないかといわれています。

一方で、ありかがわからなくなっている文化財の件数も、去年(2023年)10月時点で、全国最多の43件でした。

そこで、文化財を守っていくために何が必要なのか、今回ある仏像を修理する工房を取材したところ、意外なことが分かりました。

鹿沼市の木材業会社の一角にある仏像修理工房・三乗堂。

中愛さん、森崎礼子さん、井村香澄さん。それぞれ出身地の違う3人は、日光山輪王寺の修理現場で知り合い、そのまま栃木に移住。2017年、鹿沼市に仏像修理の工房・三乗堂を開きました。栃木で働く7年間の中で、意外に感じたことがあるといいます。

(三乗堂 森崎礼子さん)
「お寺より普通の方からの相談が多い。約3分の一が個人のご家庭。すごく意外に感じた」

現在修理中のこの仏像。野木町の真瀬正弘さんから預かっているものです。真瀬家の先祖のお墓を守るものとして、江戸時代につくられ、代々、地域の守り人が管理してきました。しかし昭和に入り、区画整理で仏像をまつっていたお堂を取り壊すことになり、真瀬さんのご両親が引き取りました。その後、真瀬さんのお宅に移すことになり、洋服ダンスの中で保管していましたが、一年前、妻の宏子さんが指が欠けてしまっているのに気付き、修理の依頼をしたそうです。

三乗堂に来た当初、仏像の保存状態は…。

(三乗堂 中愛さん)
「結構ギリギリだった。台座の損傷が激しくぐらつきもあったし、地震があると心配だったが、ちょうどいいタイミングで修理ができて構造的にもしっかり強化できた。」

(スタジオ:飯島)
一般の家庭にこんな立派な仏像があるなんて驚きました。

(スタジオ:松村)
実は仏像に限らず、県の指定する文化財の4割が、一般の家庭で管理されているものだそうです。そしていま所在がわからなくなっている文化財も、多くは一般の家庭で管理されていたものなんです。

文化財の保護のため、国や自治体は文化財保護法や条例に基づき、文化財を指定・選定・登録することができます。ただ一般家庭にあるものについては、代々表に出すことができないものもあり、自治体が把握しきれない現状があります。

今回、VTRで紹介した修理を依頼された仏像は、自治体の指定は受けておらず、管理はご自身たちで行っていたそうです。

県は「個人所有の文化財が紛失するケースは、文化財と認識しないまま相続や手放してしまうというものがほとんどで適切な管理に努めてほしい」としています。

(スタジオ:飯島)
自治体の管理にも限界があるんですね。

(スタジオ:松村)
それではこれからどうしていけばいいのか、栃木県内の文化財保護の第一線で活動する、那須歴史探訪館の作間さんに伺いました。

まず自治体に求められることは「文化財保存活用地域計画」の策定。文化財保護法の改正で自治体は、指定されていない文化財の把握・継承について計画を定めることが可能になりました。現在、県内で定めている自治体は4つですが、こうした計画をまずは定めて、指定されていない文化財の取り扱いを考えていく必要があると話していました。

一方で私たち、県民は、まず地域にどんな文化財があるか知ること、そして自分のルーツがどこにあるのか、地域にはどんな歴史があるのか、関心を持って共有することが求められると話していました。

(スタジオ:飯島)
修理の依頼を受けた仏像は、その後どうなったんですか?

(スタジオ:松村)
先日無事完成し、依頼主の元へ戻りました。

今月(3月)15日。修理を依頼した真瀬さんのお宅に、仏像を納品する日がやってきました。

およそ1年を経て、再び真瀬さんのお宅に戻ってきた仏像。指は綺麗に修復され、劣化し変色していた台座も、美しい状態に戻りました。

(真瀬正弘さん)
「新しくなったというより昔の感じが出てきた、神々しい感じがしていいですね」

(三乗堂 森崎礼子さん)
「お里に帰れてよかったね」

(三乗堂 中愛さん)
「やっとお帰り頂いてよかった」

江戸時代から、地域の人々の心のよりどころになってきた仏像。これからどのように管理していきたいか伺いました。

(真瀬正弘さん)
「一族の仏様ということでみんなで拝んできた。今は地元の人に対して新しい方が十倍くらいいるので状況が違うので私どもで守るしかないと思う。子どももいるのでできれば引き継いでいきたい。」

一般家庭にある仏像について、三乗堂の森崎さんはどのように感じているのでしょうか。

(三乗堂 森崎礼子さん)
「たまにお話聞くが、家の整理のときにお像が出てきてやり場がないので処分しようと思っていたとか、どうしようもできないと思っていたという方がお見えになることがあるので、修理することはできると思うし、力になれることがあればいいなと思う。何百年も自分の顔も知らないご先祖様が守ってきているということに目を向けていただけたらと思います」

(スタジオ:松村)
「まずは、ご家庭に実は文化財が眠っているということをお伝えしたかったんです。県内に数多くあるこうした仏像などの文化財は、一般のご家庭にあるものも含め地域の宝だと思うので、私も放送を通じてその価値を伝えていけたらと思います」

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