明秀日立が“真の強豪校”になるべく新たなスタート。サニックス杯で知った自分たちの現在地と無限大の可能性

昨夏の日本一から7か月。インターハイで創部初の全国優勝を果たした明秀日立が“真の強豪校”になるべく挑戦を続けている。

伝統的にフィジカル能力に長け、アンダーアーマー製のタイトなユニホームがはち切れんばかりに鍛え上げられた選手が揃う。戦術は堅守速攻がベースで、インテンシティの高さと縦に速いアタックは関東でも指折りのレベルだ。

昨年度のインターハイでは、初戦で静岡学園に2-1で競り勝ち、続く2回戦では青森山田に1-0で勝利。茨城県リーグ1部所属のチームがプレミアリーグ勢を破って勢いに乗り、一気に頂点へと駆け上がった。その一方で、冬の選手権は2回戦でPK負け。プリンスリーグ関東2部昇格もプレーオフで敗れるなど、最後は笑顔で終われなかった。

ただ、去年の経験はチームにとって貴重な財産。萬場努監督は言う。

「自分自身、(監督として真夏のトーナメントで)6試合を勝ち上がる苦しさを分かったつもりでいる。連戦に対する免疫とか、疲労がどのタイミングで来そうというのは選手に伝えやすくなったし、選手も意識しながら取り組んでくれる。何より、(去年の体験があるので)話が入りやすくなった印象がすごくある。なので、(日本一を目ざす)目線が揃いやすくなりました」

昨年の日本一に貢献した守護神の重松陽(2年)はこう話す。

「チームがバラバラになっていても、連戦の中でもどれだけチームがカバーして助け合えるか。その部分があったうえで技術も発揮できる。そんな選手が多いチームは強いと知ったので、僕たちも体現していかないといけない」

今年のチームは守備陣の経験値が乏しい。攻撃陣ではFW柴田健成(2年)やMF阿部巧実(2年)、FW竹花龍生(2年)、FW保科愛斗(2年)が昨年のインターハイ優勝を経験した一方で、最終ラインには昨年のレギュラーがひとりもいない。GKの重松以外は全て入れ替わったため、一から再構築するしかない。

「僕自身の力もアップデートしつつ、自分が(経験を)伝えていく。それが僕の役割。どんどん伝えて、去年に負けないぐらいの守備陣を作って、安定感を高めていけるように自分から発信したい」という重松の言葉からも、危機感と覚悟が感じ取れた。

しかし、1月の県新人戦は準々決勝でまさかの敗退。PK戦で敗れ、早々に姿を消した。県大会で敗れたのは一昨年の選手権予選以来。チームはいきなり現実を突きつけられた。

「一つにまとまれていなかった」とはゲームキャプテン竹花の言葉。悔しい経験を踏まえ、チームはもう一度、全国で戦うために組織力の強化に励んだ。

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その結果、3月13日から行なわれたサニックス杯国際ユース大会では目覚ましい結果を残した。昨季の2種年代で結果を残したチームが招待されるフェスティバルで、チームはプレミア勢やプリンス勢に互角以上の戦いを見せた。

予選リーグではプリンス九州2部の佐賀東に3-1で勝利し、プレミアWESTのヴィッセル神戸U-18にも1-0で勝ち切った。決勝トーナメントでは準決勝でプレミアWESTの大津に0-4で大敗したが、3位決定戦ではプレミアEASTの市立船橋にPK戦の末に勝利。相手は怪我人や高校選抜の活動に参加している選手が不在だったが、持ち前のパワーと組織力で対抗した。

3-1から終了間際の連続失点で追いつかれたのは反省材料だが、PK戦では重松が4本中3本をストップ。チームは勝負強さを示し、県新人戦からひと回りもふた回りも逞しくなって戦える集団に変貌を遂げた。

昨季は夏に全国レベルを知り、今季は開幕前に強豪校やJクラブの下部組織と戦えた。その経験を持ってシーズンに入れれば、自ずと求める基準は上がる。

今回のサニックス杯では、コーチングに工夫を凝らしたという。これまで伊藤真輝コーチがテクニカルエリアで指示を出し、萬場監督は後方からバックアップしてきたが、今大会は伊藤コーチが不在。指揮官は選手たちに答えをいきなり言うのではなく、考えさせるような声掛けを行なった。その理由について、こう話す。

「今まで僕は先頭に立っていたけど、去年は後方から見させてもらった。少し見方を変えられたので、彼らが自力で改善できるように働きかけるには、彼らの知恵を出させるようにしないといけないと感じた」

自立できれば、選手たちの成長スピードは一気に加速する。そうした取り組みも行ないながら、明秀日立はさらなる高みを目ざす。夏と冬の日本一はもちろん、プリンスリーグ関東2部昇格を果たすべく、挑戦を続けていく。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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