『デューン 砂の惑星PART2』リンチ版の補完、そんな達成感を一蹴する

※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。

『デューン 砂の惑星PART2』あらすじ

砂の惑星デューンをめぐるアトレイデス家とハルコンネン家の壮絶な宇宙戦争が勃発!ハルコンネン家の策略により、アトレイデス家は全滅。しかし、最愛の父とすべてを失うも、後継者ポールは生きていた。ポールは愛する砂漠の民チャニと心を通わせ、その絆は、彼を救世主としての運命に導いていく。一方で、ハルコンネン家は宇宙を統べる皇帝と連携し、その力を増していく。そして、遂に復習の時─。未来の希望を取り戻すため、ポールたちの全宇宙を巻き込む最終決戦が始まる。

ハーバートの精神により迫る第2部


SFファン、そして多くの映画ファンは、ある種の達成感を『デューン 砂の惑星PART2』(以下『PART2』)に感じているのではないだろうか。

なぜなら今回の『PART2』をもって、フランク・ハーバートの代表的なSF叙事詩「デューン砂の惑星」(以下「デューン」)が、不足のない形で映画化されたのだから。

不足と称するのは他でもない、この大河小説の劇場長編映画化は、1984年に発表されたデヴィッド・リンチ監督の『デューン/砂の惑星』(以下:リンチ版)が先んじて実現させている。同作はプロダクションの不調整によって物語が一貫性を失い、加えてダイジェストのように圧縮加工されてしまったのだ。カルト作の誉れ高く熱狂的な支持者も少なくはないが、「デューン」の映画化としてどこか悔いの残るものであったことは否めない。

『デューン 砂の惑星PART2』© 2024 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.

そんなリンチ版を反省材料とし、監督ドゥニ・ヴィルヌーヴを中心とするクルーたちは、「デューン」のスクリーン翻案として最適解の答えを出すことに成功した。そこには原作に描かれた、対外的な膨張主義に対する批判精神が失われることなく存在し、宗教や民族問題が寓話としてしっかりと機能している。核の時代に生きることの危険性しかり、人間が自然に干渉し、資源のために土地を破壊することへの警鐘を、時代に応じた強弱の変化をもってしっかりと鳴らしているのだ。

なにより、潜在的な能力を持ちながらも何者でもない王家の跡取り息子ポール(ティモシー・シャラメ)が、運命と試練にあらがい、全宇宙の救世主としての覚醒をうながされていく。そんな「英雄神話」として軸の太いストーリーラインが、『PART2』を経て見事に顕在化されているのだ。彼の台頭にともなう平和への不安視や、一致で称賛されないところは今日的だが、映画は「古典の再解釈・再定義とはこうあるべき」という創造的な自信に満ち、そして迷いがない。

リンチ版の雪辱を果たしたはずが…


とはいえ、ヴィルヌーヴのヴィジョンが原作にどこまでも従属的だというわけではない。前回の2021年製作『DUNE/デューン 砂の惑星』(以下『PART1』)が大筋で原作に沿った展開にしていたのに対し、今回は少し異なる方向へとアダプトしている。代表的なのはフレメン族の女性戦士チャニ(ゼンデイヤ)の役割の大幅な拡張だ。原作でチャニはポールの側室として、二人の子を産み、彼を支持し続けている。だが映画では、ポールが王位に就き、皇帝の娘イルーラン(フローレンス・ピュー)との政略結婚に同意したとき、彼女の中で愛憎や確執にも似た感情が生まれる。物語はそれを引き込み線にして、次の原作「デューン砂漠の救世主」に向かおうとするのだ。

「デューン」を不足なき形で映画化したにとどまらず、さらに延伸させて第3作目の存在を匂わせるのは、ヴィルヌーヴのバージョンをリンチ版の雪辱戦と捉える向きには思いもよらぬ展開である。「ああ、思えばギルドナビゲーターは禍々しくておぞましいリンチ版に軍配が上がるな」などと、遠い目をして比較論に終始し、達成感に浴している場合ではないのだ。

『デューン 砂の惑星PART2』© 2024 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.

全編IMAXの衝撃


リンチ版シンパの血圧を上げすぎたので、いささか恣意的だが話題をマニアックに変えたい。

今回の『デューン 砂の惑星 PART2』も『PART1』と同様、IMAX社の承認による「Filmed In IMAX」というプログラムを活用し、巨大スクリーンをマーケティングギミックとするIMAXデジタルシアターでの上映を可能にしている。ただ『PART1』のIMAXバージョンは、アスペクト比1.90:1(or 1.43:1)と2.39:1の混合フォーマットで、アクションシーケンスや壮大な景観のショットを中心に1.90:1が展開するのに対し、撮影監督グレイグ・フレイザーの言葉を借りれば今回は「ほぼ全編」にわたって1.90:1に調整されている。なので通常のIMAXデジタルシアターで鑑賞すれば、フレーミングがちょこちょこと切り替わることなく楽しめるはず。さらにフルフレームIMAX上映が可能な一部のオーディトリアム(池袋と大阪・千里)だと、1.43:1と1.90:1という、より画面情報の多い混合フォーマットのバージョンを見ることができるのだ。

しかも今回は正規のデジタルIMAXシネマカメラ「ARRI ALEXA 65」が撮影に併用され、「Filmed In IMAX」規格でありながら一部は本式のIMAX(*1)という、じつに驚異的なスペックを兼ね備えている。前作よりもスペクタクルシーンに連動したIMAXを楽しんで欲しい。通常の劇場にかかるバージョンもフレーミングが2.39:1に調整されており、各々に優劣はない。それぞれ個別の価値を有しているという認識のもと、時間と環境が許す範囲で両方観るのが理想的かもしれない。

*1)『DUNE/デューン 砂の惑星』新たなIMAX規格で生まれた傑作SF。巨大画面&フルフレームのIMAXで味わう醍醐味とは⁉︎

文:尾崎一男(おざき・かずお)

映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。

Twitter:@dolly_ozaki

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『デューン 砂の惑星PART2』

大ヒット上映中!

配給:ワーナー・ブラザース映画

© 2024 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.

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