上司「このグラフ、意味不明なのだが?」→統計が読めない人にありがちなミス。経済評論家が伝授する〈超キホンのビジネス統計〉

(※写真はイメージです/PIXTA)

ビジネスには必ず数字がついて回りますが、数字の意味を正しく把握・解釈できないと、意味のない集計やトンチンカンな分析をしてしまいがちです。本記事では、ビジネスに必要なデータの読み方について、経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

せっかくの統計データも、比較する場所を誤れば「意味不明」に

「季節性のある統計」は、前月と比較しても意味がありません。

2月のチョコレートの売り上げは、バレンタインデーの影響で1月より多いに決まっていますし、8月は夏休みですから旅行関係の統計は好調でしょう。12月はボーナスが出るので消費関係の統計は好調なはずです。

このようなデータは、グラフ化しても意味がありません。チョコレートの売り上げをグラフにすると、毎年2月のところだけ山が飛び出し、なにがなんだかよくわからないグラフになってしまうからです。

このような集計で資料作成したら、上司に「これでは意味不明になってしまうよ?」と、注意されてしまうでしょう。

季節性のある統計の場合は、前年比で見ると便利です。前年2月にもバレンタインデーはありましたし、前年8月も夏休みがあったからです。したがって、統計が発表されると「前年比は何%だったのか」が注目されるワケです。

前年比を見るときは「前年の特殊要因」に要注意

もっとも、前年比の数字も気をつけないと思わぬ失敗をしかねません。

昨年8月にオリンピックがあったとしましょう。さぞかしテレビが売れたでしょうね。そうなると、今年の8月はテレビの売り上げの前年同月比がマイナスとなってしまうはずです。

前年に特殊要因があった場合には、2年前の同月、3年前の同月と比較することで今年8月が好調であったか否かがわかるので、本来であれば実害は少ないのですが、昨年8月にオリンピックがあったことを忘れていると「今年8月は不振だった」という誤った理解をしてしまいかねませんので要注意です。

前年比を見るだけでは、事態の変化に気付くのが遅れることも…

石油ショックが来て消費者物価指数が100から120になって(20%上がった)、そのまま推移したとします。物価の前年比は12ヵ月にわたってプラスで、その後はゼロになります。

1年後に前年同期比がゼロになったグラフを見て「ようやく石油ショックの影響が消えてインフレが収まった」と考えるのは誤りです。石油ショックの翌日から物価は「高値で安定」していたわけですから。

このように、前年比を見ていると、事態が変化したことに気付くのが遅れる可能性があるので要注意です。

認識が遅れる可能性のもうひとつの例として、下がっていた物価が上昇に転じた場合も要注意です。

毎月1%ずつ物価が下がっている国があるとします。事情が変わって毎月1%ずつ物価が上がるようになっても、物価の前年比がプラスになるのは半年後です。半年の間、前年比の下落幅が少しずつ小さくなっていくので、何か起きていることには気付けるわけですが、物価が上昇に転じていることに気付くのは容易なことではないでしょう。

消費者物価指数のように、それほど季節性が大きくないものについては、データをそのままグラフ化することが可能です。そうすれば、石油ショックの翌月から物価が安定していることに容易に気付くことができますし、物価が下落から上昇に転じたことも、ただちに気付けるでしょう。

季節性のあるデータは「季節調整値」を見るとよい

季節性のあるデータを扱うときは、季節調整値を見るとよいでしょう。「2月は普段の月よりチョコレートが3倍売れるので、2月の売上高を3で割ってグラフに描き込む」といったイメージです。経済統計が発表されると、同時に季節調整値も発表される場合が多いので、そちらを見るようにしたいものです。

自社のチョコレートやテレビの売り上げ等に関しては、自分で季節調整値を計算する必要があります。プロが使っている計算式は複雑なものですが、素人がパソコンで簡単に計算できる簡略法をご紹介しますので、試してみてはいかがでしょうか。

季節調整値の計算例

①過去10年分のチョコレートの売り上げデータ(120個)を用意し、120個のデータの平均を計算する。

②次に、2月のデータだけ(10個)を取り出して、平均を計算する。

③2月の平均を全体の平均で割った値が3なら、2月は普段の3倍売れることがわかるので、2月のデータを3で割った値が、今年2月の季節調整値となる。

季節調整値は前月と比較が可能なので、前月比何%増えたか、といった数字で語られることが多いのですが、筆者はグラフ化することをお勧めしています。

先月が絶好調だったので、今月も好調だったが前月比がマイナスだった、といったことが起きても、グラフを見れば「最近好調だね。先月は出来過ぎだったとしても、今月の水準でも十分いいね」といったことに気付けるかもしれないからです。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

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塚崎 公義
経済評論家

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