一見普通の“シャツ”が国際デザイン賞受賞のワケ 「病気や障害がある人もオシャレを楽しみたい」…開発の裏に“亡き妻の思い” 島根の縫製工場の挑戦

障害の有無などに関わらず、多くの人が使いやすい「ユニバーサルデザイン」。
このほど、島根県松江市の会社がこのユニバーサルデザインの国際的な賞を受賞する快挙を成し遂げました。
障害や病気があってもオシャレを楽しみたい…
開発の裏側には、社長と亡き妻の知られざる物語がありました。

松江市にある縫製会社KUTO(クト)。
普段は服などの企画、製作から販売まで行っている会社ですが、じつは先日、ある偉業を成し遂げました。

KUTO 福田圭祐 社長
「今回ですね、ユニバーサルデザインのIAUD国際デザイン賞の銀賞を受賞しました。」

「ユニバーサルデザイン」とは、障害の有無や文化の違い、年齢や性別などに関わらず、多くの人が利用しやすいデザインのこと。
ユニバーサルデザイン社会の実現に向けて特に顕著な活動をした団体などを表彰する国際賞で、KUTOは見事「銀賞」を受賞したのです。

今回表彰されたのが…

KUTO 福田圭祐 社長
「『スルースリーブ』っていうシャツになっています。腕に麻痺のある人でも着やすいシャツ、片手で簡単に着られるシャツになっています」

一見普通のシャツのように見えますが、ポイントは脇下の部分。

KUTO 福田圭祐 社長
「縫い目がないので、ここをならうようにして。麻痺の手でサポートはできないので、このままでここが伸びるからスルッと入りやすい」

ほかにもボタンはマグネット、カフスはゴムと、とことん着やすさを追求しました。

開発の始まりは、「障害のある人にもオシャレを楽しんでもらいたい」という思いから。
実際にヘルスケアアパートなどに足を運び、病気で思うように体を動かせない人から直接意見を聞きました。

難病を患う 岡本光司さん
「手が動かなくなってくると、服もボタンとか何時間もかけてはめるとか…」

進行性の難病から思うように体を動かせなくなってしまったという岡本さん。
着られる服といえば、大きいサイズのものやジャージばかりでした。

難病を患う 岡本光司さん
「気持ちがキチッとして、晴れやかになります」

実際に着てもらった意見をもとに改良を重ねること数ヶ月。
ようやく完成したスルースリーブシャツは、世界8ヵ国、大手の会社からも多くのエントリーがあった中、国際的な賞を受賞するに至りました。

KUTO 福田圭祐 社長
「中小企業でこれをとったことは僕はすごいと思っていて。富士通とかソニーとかの大手さん、あと大学のベンチャーですよね。私らより上のところは、大体そんなところです」

世界から高い評価を受けたスルースリーブシャツ。
じつは、開発のきっかけとなったある人物がいます。

KUTO 福田圭祐 社長
「これ2013年ですね、病気になる前」

社長の妻・かおりさん。
2年半前、50歳という若さでこの世を去りました。肺がんでした。

KUTO 福田圭祐 社長
「やっぱり色々薬を飲んでいると、指先に痺れがあったり力が弱くなったり。洋服の着にくさっていうのは感じてました。その中でも洋服って力があって、好きな服を着ていると元気になるじゃないですか。病気になっても元気に生きていきたいって、妻はすごく前向きに生きてましたんで」

8年にわたった闘病生活の中で、支えとなったのが『ファッションの楽しみ』。
病気や障害があっても誰でも着やすい服を作ってほしいと、かおりさんが提案したといいます。

KUTO 福田圭祐 社長
「その時は生きるのがお互い一生懸命だったんですけど。そういう方ってたくさんおられると思うので、ちょっとでも楽に楽しんでもらいたいっていう気持ちがあって作り始めました」

亡き妻の残した想いを形にー。
スルースリーブシャツはこうして生まれたのです。

次々と新しいデザインが登場する中、4月には履きやすいジーンズも発売予定。新しい商品を作り続ける理由が…

KUTO 福田圭祐 社長
「洋服って1個作ったらいいかって言ったらそんなことなくて、色も柄もデザインも色んなのがあるから楽しいんで」

すべての人がファッションを楽しめる社会を目指して…
社長とかおりさんの思いが詰まったスルースリーブシャツは、これからも多くの人にファッションの楽しさを届けてくれるに違いありません。

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