社説:AIの安全規制 負の影響防ぐルール整備を

 急速に普及する人工知能(AI)が、社会と人々にもたらす負の影響への危機感を表していよう。

 欧州連合(EU)欧州議会は先週、対話型の「チャットGPT」など生成AIを含めた世界初の包括的なAI規制法案を可決した。

 2026年から適用見込みで、生成AIで作った画像の明示などを企業に義務付け、違反時には巨額の制裁金を科す。

 国連総会でもおととい、AIの開発や利用を巡り、各国に安全性や信頼性を重視するよう求める初の決議を採択した。「基本的人権と自由の尊重」などを盛り込み、国際的なルール作りに向けた議論も促した。

 文章や画像を容易に作成できる生成AIが広まり、偽情報の拡散やプライバシー、著作権の侵害への対応が焦眉の課題となっている。

 有力企業を抱える米国に続き、AI活用に軸足を置いてきた日本も安全性確保に向けた法規制へ動きつつある。顕在化するリスクに、いかに実効性ある網をかけられるかが問われる。

 EUは近年、巨大IT企業への相次ぐ規制導入で世界をけん引してきた。個人の権利保護を重視し、AIでも先駆けた規制を世界標準にしたいのだろう。

 包括規制は、AI作成画像の明示や、システム開発に使用した著作物の開示を義務付けた。個人の特徴に基づく信用格付け▽宗教や性的指向、人種を利用した分類への利用▽顔画像の無差別収集-などを禁止する。

 企業が違反した場合、最も重いケースで3500万ユーロ(約56億円)か、年間売上高の7%のいずれか高い方を制裁金に科さす。外国企業も対象だ。

 フランス当局は今週、記事使用を巡るEUの指令に反したとして、米IT大手グーグルに約410億円の制裁金を科した。包括規制は企業活動に一段と大きな影響を与えよう。

 米国では昨年10月、バイデン大統領がAIの安全性確保に向けて法的拘束力ある大統領令に署名した。今秋の大統領選を控え、民主主義を脅かしかねないとの警戒感からだろう。2016年と20年の大統領選で、ロシアから交流サイト(SNS)に多くの偽情報や陰謀論が流布され、有権者の投票に影響を及ぼそうとしたとされる。

 欧米の動きを受け、日本政府も大規模なAI開発者を対象に法規制を検討し始めた。「人間中心」「安全性」など10原則を柱とするガイドラインで企業に自主規制を促す方針だったが、罰則も視野に拘束力ある法規制へかじを切るという。

 これまでAI開発・活用の足かせになると慎重で、著作権保護を含め各国の規制議論から遅れている感は否めない。

 能登半島地震でも問題化した偽情報やデマ画像などの悪用を防ぎ、安全に役立てる世界のルール作りにも貢献したい。

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