スパイスカレー、生クリームがてんこ盛り…東京でうどんが独自の変化を遂げていた

【あの食トレンドを深掘り!Vol.50】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

進化系うどんが続々登場

昨年11月に京都へ行った折、四条でキーマカレーうどんを食べた。蕎麦のような色合いの四角い麺は、焙煎胚芽をブレンドしているのだそう。スパイスカレーの本場は大阪だが、京都もインド好きが多くカレーも本格志向の店が目立つ印象がある。「京都四条くをん」というこの店も、スパイスは独自のブレンドで石臼挽き。カレーうどんというよりスパイスカレーをうどんで食べた、という印象だった。豆乳出汁かカツオ出汁を追い出汁としてかけ、味変も楽しめる。

実は最近、巷でこうした進化系うどんが流行しているらしい。東京でも、生クリームがたっぷり載ったうどん、フランス料理店が監修したフォン・ド・ヴォーを出汁にしたカレーうどんで、和風出汁を加えれば味変する讃岐うどんの店など、合わせる汁や具材、出汁、うどんの製法、そしてもちろん食材にもこだわったグルメなうどん店が増え、話題を集めている。

チェーン店でも、丸亀製麺が透明なカップにうどんと具材を入れ、振って食べる「丸亀シェイクうどん」を出している。2023年に発売からわずか3日で21万食突破の大ヒットになるなど、さまざまな進化系うどんを打ち出し、人気を集めている。

東京独特のうどん文化って?

最近、カレーもハンバーグも和食も和菓子も、と何でも進化系食がある。おそらく40年に渡るグルメ化が、おいしさを追求するトレンドを生み出していると思われるが、東京のうどんに関しては、「なるほど」と腑に落ちる部分が私にはある。

従来のうどんと違う料理と言われて思い出すのが、10数年ほど前だったか、東急本店の前で入ったイタリアうどんの店。もう店の名前も忘れてしまったが、トマトソースのパスタのような平打ち麺のうどんで、「確かに、うどんは日本のパスタだよな」、と感じたことを思い出す。

そういう意味で、うどんはずっと前から進化していた、と言えるのだが、『news every.』(日テレ系)のアーカイブ動画で2023年3月6日放送回を視聴して、紹介されている3店の共通点がうどんのコシだったことから、「やはり」、とまた思った。

17世紀の江戸はうどんが人気だったが、18世紀後半には蕎麦が主流になり、その後は長らくうどんで名を馳せることはなかった。2000年代に放送されていたグルメ情報番組『どっちの料理ショー』(日テレ系)でも、テッパンの人気は秋田の稲庭うどんだったし、その前ぐらいから讃岐うどんブームが始まり、丸亀製麺やはなまるうどんが広がって、コシにこだわる人を増やしていった。東京人たちがハマってきたのは、東京ブランドではない。

全国のうどんその他の粉モノは、水車小屋が粉ひきをラクにした江戸時代に発達した。東京周辺でも、埼玉県や東京西部ではうどんが盛んに作られたし、山梨県の富士吉田市の富士吉田うどんなどもある。もちろん、山梨はほうとうもある。群馬にもおっきりこみ、ひもかわうどん、水沢うどんなどのご当地うどんの仲間がある。小麦の産地でこうした文化は育っていったが、江戸の町では、カツオ出汁と濃口醤油のつゆが合う蕎麦が気風に合い過ぎてうどんは衰退したのかもしれない。

大阪も、きつねうどんなどのうどん文化がある。チェーン店の杵屋は大阪に本社がある。関西のうどんは汁ごといただくため、関西出身で東京に住む人たちは、「真っ黒な汁」の東京うどんの恐ろしさを語り継いできた。私自身も失礼ながら、出汁より醤油の存在感が大きい東京うどんの汁は違和感があるし、スーパーの生麺も苦手で、東京在住の関西人たちは失礼にも「冷凍うどんのほうがマシ」と言い合い、私も冷凍うどんを買う。

しかしグルメの中心地に住む東京人は、うどん後進地に安住はしていなかった。蕎麦で鍛えた喉越し文化を持つ東京人が、各地から集まるうどんの味を覚え、独自の探求心で生み出したのが、進化系うどんだったと私はにらんでいる。

20年ほど前、東京に関西人が大量に来たからか、和食の匠たちの出汁アピールが強かったせいか、東京人もすっかり出汁好きになった(もともと、カツオ出汁文化はあったのだから、西の私が偉そうに言うことではないが)。はっきりとうまさを感じる進化系うどんは、各地の文化を取り込んで生まれたハイブリッドと言えるかもしれない。京都はもちろん、大阪でも進化系うどんは人気らしい。うどんは、日本の多くの地域のローカル文化でもあるので、もしかすると、各地のうどん県でも進化が始まっているかもしれない。

画像提供:Adobe Stock

© クックパッド株式会社