那須雪崩事故から27日で7年 大田原高で追悼式 遺族ら、犠牲の8人に思いはせる

追悼式で、亡くなった息子への手紙を読む浅井さん=23日午前10時5分、大田原高

 栃木県那須町で2017年3月、登山講習会中だった大田原高山岳部の生徒7人と教諭1人が死亡した雪崩事故から27日で7年となるのを前に、遺族や県教委などによる追悼式が23日、同校で営まれた。遺族や関係者ら42人が献花台に花を手向け、犠牲となった8人を悼んだ。

 分厚い雲が空を覆い、肌寒い天気となったこの日、参列者は校内に建立された慰霊碑と8人の名前が刻まれたプレートを前に、1分間の黙とうをささげた。遺族は時折ハンカチで目頭を押さえながら、亡くなった大切な人に思いをはせた。

 追悼の辞で、浅井譲(あさいゆずる)さん=当時(17)=の母道子(みちこ)さん(58)が息子に宛てた手紙を読み上げた。「誰かのために何かをすることで自分の存在意義を見いだす。私はそんなあなたの不器用なところが一番好きだった」と声を震わせた。

 「あまりに突然に訪れた別れだから、心残りが数多くあると思う。私は生きている限り、今後このような悲しい事故を起こさないために、何ができるだろうかと考え続ける覚悟でいます」と語り掛けた。

 阿久澤真理(あくさわしんり)県教育長は「安全を最優先すべき教育活動の中で、取り返しのつかない事故を引き起こしてしまった。二度と繰り返されないように取り組む」と再発防止を誓った。

 事故を巡っては昨年7月、一部遺族が損害賠償を求めた民事訴訟で県などに約2億9千万円の支払いを命じた宇都宮地裁判決が確定。引率教諭ら3人は業務上過失致死傷罪に問われ、検察側はいずれも禁錮4年を求刑し、5月に判決が言い渡される。

 式後、奥公輝(おくまさき)さん=当時(16)=の父勝(まさる)さん(52)は「刑事裁判は決着しておらず、もやもやした気持ちを抱えているが、(公判で)事実や教諭らの安全配慮義務が明確になった。昔と比べて穏やかな気持ちで今日の日を迎えられた」と複雑な胸中を明かした。

【追悼式で浅井道子さんが読み上げた息子・譲さんへの手紙(一部抜粋)】

 譲へ。この春、あなたの大切な妹が高校を卒業しました。面倒見が良かったあなたのことだから自分がいなくなってさみしがっていないか心配で仕方がなかったと思います。けれど、11年間お兄ちゃんの愛情をたっぷり注がれたあの子は自分の夢に向かって歩み出そうとしています。

 特記すべきは、あなたが妹の小学校の授業参観日に一人で行ったことでした。5年生の教室の後ろの真ん中で、大田原高校の制服を着た立ち姿、他の保護者に混じって妹をずっと見守っていた優しいまなざしが忘れられないと、後から知人に聞かされました。そのわずか3週間後、あなたは最愛の妹を残して帰らぬ人となりました。あなたがいなくなってから7年。私も今日まで生きてきました。

 あまりに突然に訪れた私達との別れだから、心残りが数多くあると思います。私はあなたの思いを知りたくて、あなたがやっていたことに次から次へと無我夢中で携わってみましたが、なんだかしっくりせず不安は広がるばかりでした。ついにたどり着けました。あなたの思いを知りたければ、あなたと同じように山に登ればいいと。この3年間、14回の登山の中で、現在の大田原高校の山岳部と活動を共にしました。真っ白な雲を足元に見下ろしたり、池に映し出された色鮮やかな紅葉の山肌に魅了されました。そう、あなたもきっとこんな景色を見て、こんな風に感じて、仲間と共に過ごしていたのではないかと想像するたびに私の心は浄化されていきました。茶臼岳のやまびこスポットで部員全員で声を掛けると、「元気にしているよ」と8人からの声が風に乗って聞こえてくるような気がしました。

 あなたは誰かのために何かをすることで自分の存在意義を見い出していた。そんな不器用なところが、一番好きだった。

 3月27日の8時40分。大田原高校の1班の先頭にて、最初で最後の1歩を踏み出してしまった。どんなに悔やんでいるか。想像を絶します。ただ、あなたの見上げたその先には、どんな景色が見えていたんだろうか。私はそれをいつも考えずにはいられません。そしてもし、あなたに雪崩の知識が備わっていたら事態は全く変わっていたという私自身の確信は、この7年間ずっと消えることはなく、これからも変わらないでしょう。

 私は私が生きている限り、今後このような悲しい事故を起こさないために、何ができるだろうかと考え続ける覚悟でいます。明確な問題の解決を望んでいるのではなく、あらゆる立場の方が、それぞれの視点で向かい合い続けている自体そのものが救いなのです。欲しいのは早急な答えではなく、簡単に解決し得ないことに寄り添い続けてくれる言葉や形にならない思いの中に人として尊重され、生きる意味に出会える希望を持つことができました。譲、いつかあなたの誇れる母になれるかな。

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