【日曜特番・敦賀開業1週間 新幹線効果は?】つながる意識感じた 「新幹線学」櫛引氏は見た(青森大教授)

開業イベントでにぎわう加賀温泉駅前=16日午後1時半

  ●復興の仕掛けもっとできる

 北陸新幹線敦賀開業日の16日、「新幹線学」を提唱する青森大の櫛引素夫教授は延伸区間の各駅で降り、駅や周辺エリアの盛り上がりをウオッチした。これまで全国各地の新幹線開業に立ち会ってきた経験から、祝福ムード一色の中で何に目を付けたのか。各駅、各地域の課題や可能性について語ってもらった。

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 当日は敦賀駅で1番列車の出発を見送った後、2番列車に乗り込み、各駅で乗り降りを繰り返しながら金沢へ向かいました。それぞれの町の特性や、個性を生かした戦略が駅ごとに見え、興味深い体験でした。

 越前たけふ駅では、地元住民が駅近くの丘でオレンジ色の布を振って出迎える準備をしていました。手作り感のあるもてなしがよかったですね。観光関係者だけでなく、みんなで開業に向き合っているんだなと感じました。

 福井駅は駅前再開発と一体になったお祝いムードに包まれ、ショッピングセンター「くるふ福井駅」は入場制限がかかるほどの人出。芦原温泉駅では地元ゆかりのアニメ声優らのイベントに大勢のファンが詰めかけていました。

  ●「第2の開業」に対応

 同じ温泉地でも加賀温泉駅のにぎわいは別格でしたね。小松、金沢も含めた石川県内の3駅はもてなしに熱が入っており、盛り上げ方も巧みで、「第2の開業」にうまく対応している感がありました。

 小松駅の催しで印象的だったのは富山、新潟、長野からの出店があったことです。東京と直結してよかったというだけでなく、沿線各地に目を向け、つながろうとしている意識を感じました。

 その点で圧巻だったのは敦賀でしょう。沿線各駅から満遍なくブースが出て、各自治体の特産品などをPRしていました。特に目を引いたのは、リンゴやブナシメジなどの特産品を扱う長野県飯山市のブース。飯山の人口は2万人ほどですが移住先として国内トップ級の人気があります。敦賀とはつながったばかりですが、両者で面白いことをやりそうな予感がしますね。

 新幹線効果というと、観光誘客ばかりに目が行きがちですが、それだけじゃない。開業を機に新たな広域ネットワークをつくり、この先の人口減少時代に新しいことを始めようという視点は重要です。

 一方で心配なのが関西方面の反応です。あちらの友人たちはみんな北陸との行き来が不便になったと口をそろえ、「俺たちに来るなと言ってるのか」なんて声も耳にします。

 加賀温泉をはじめ、石川の観光地は関西客に頼るところも大きかったわけですから、「われわれは大阪を、関西を粗末にしませんよ」というサインを早く送らないと、見放される恐れもあります。

  ●ビールは買えず…

 一番のネックとなる敦賀駅での乗り換えも開業翌日に体験しましたが、3分半程度しかかかりませんでした。ゆっくり歩いても5分ほどでしょうか。ただ、移動中に缶ビールでも買おうかなと思った時には、途端に余裕がなくなる。構内のコンビニに列ができていたのでビールは諦めざるを得ませんでした。

 私は以前から、敦賀乗り換えのネガティブなイメージが定着したら手遅れになると訴えていました。急ぎ足の乗り換えを逆手にとって、兵庫県西宮市の伝統神事「福男選び」みたいに、誰が一番にたどり着けるか競うイベントでもやったらと提案もしましたが、実現せず(笑)。

 敦賀のマイナスイメージは、石川県も人ごとではありません。関西から加賀温泉や金沢、和倉温泉に行きづらいというマイナスイメージにつながる可能性もあります。この問題をどう解決するか、県境を越えた新しい関係性をつくり、新しい枠組みでの議論が必要でしょう。

 新幹線開業を能登半島地震の復興にどうつなげるかという点については、石川県側にまだマンパワーの余裕がないせいか、開業日にはそのメッセージを十分に感じ取れなかった。石川の各駅に復興支援のブースがありましたが、もっと復興を前面に押し出した仕掛けができた気もします。福井側は人混みのせいもあってか、地震がらみの情報を駅周辺で見掛けませんでした。

 敦賀開業を機に、今までにない県境を越えた関係性や、つながり方のパターンが構築されれば「新幹線×復興」の新たなアイデアも生まれてくるのではないでしょうか。(談)

 ★くしびき・もとお 1962年、青森市生まれ。東奥日報社で記者として勤務し、2016年から青森大社会学部教授。四半世紀にわたり新幹線と地域振興について研究し、「新幹線学」を提唱する。

櫛引素夫教授

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