アフターコロナ「タクシー業界」の今 異業種からの転職増加→売り上げ回復も…新たな懸念「ライドシェア」の影響は?

コロナ禍で利用者が減り、売り上げも減少、一時は運転手の離職も相次いだタクシー業界。アフターコロナの今、ようやく売り上げが回復してきたという会社もありますが、実は、新たな懸念もあるといいます。
タクシー業界の今を取材しました。

「どちらまで行かれますか?駅前ですね。では近くで車を探して配車いたします。お待ちください」

鳥取県米子市で24時間稼働する「皆生タクシー」。
会社の売り上げトップクラスの1人が、和田陽さん(32)です。
去年、この業界に転職してきたという和田さんは、運転手に必要な二種免許を取得して1年経たずして、すでに会社のエースに。

転職前の仕事はというと…

皆生タクシー ドライバー 和田陽さん
「東京の国士舘大学で野球部のコーチをしてました」

松江市の開星高校出身で、なんと春夏通算で甲子園に3回出場した過去も。
異業種からの転職が多いのもこの業界の特徴です。

コロナ禍で利用客が減少し、売り上げが落ち込んだタクシー業界。
全国では、タクシー会社で働く運転手の数が新型コロナの影響や高齢化などで4年前より6万人ほど減少しました。
ただ、実は、去年6月から再び増加傾向に転じています。
皆生タクシーでも、ここ1年で20~30代を中心に運転手が増えました。

その理由の1つが…

皆生タクシー ドライバー 和田陽さん
「17時から出勤をして、日をまたいで次の日の3時に終わり。22時から翌朝の5時までの間が2割増しっていう。夜の方が稼げると思います」

皆生タクシーの場合、運転手の給料は完全歩合制で、客を乗せた分、給料も増える仕組みです。

野球で鍛えた根性が強みの和田さん、割増料金のある夜が主戦場です。

1日の売り上げを聞いてみました。

皆生タクシー ドライバー 和田陽さん
「売り上げが多かった日で6万円とかですね。そのうちの約4割が自分のところに入ります。給料はイメージしていたよりは意外と高いなって思いました」

稼げる環境や、柔軟なシフト勤務、テレワークなどが求職者とマッチ。
皆生タクシーでは、コロナ禍で20人ほど退職しましたが、現在、ドライバーの数はコロナ禍前の水準まで戻りました。
売り上げも回復してきた中ですが、実は今、こんな懸念が…

皆生タクシー 杉本真吾 社長
「鳥取県ではどのような形でライドシェアが普及していくのかっていうのは、一つ我々の業界としては懸念材料になりますね」

二種免許を持たない一般のドライバーが自家用車を使い、有料で客を運ぶ「ライドシェア」。
現在、日本ではいわゆる「白タク行為」になるとして原則禁止されていますが、政府は、タクシーが不足する地域や時間帯に限定し、今年4月から解禁する方針を決めていて、タクシー会社が運転手の教育や運行管理などを行うとしています。

しかし、安全面での懸念も…

皆生タクシー 杉本真吾 社長
「一番懸念している点は睡眠時間ですね。ライドシェア運転手が、本業で忙しくて、寝ないで車の業務に当たるのでは…というところを非常に懸念しているところです。社員と違って日中に何をなさっているのかということがよくわかりませんので」

なぜライドシェアが必要なのか。
公共交通に詳しい専門家に聞きました。

桃山学院大学 西藤真一 教授
「移動目的が人によって違うとか、目的地が全然違うとか、あるいは時間帯移動される時間帯も人によってバラバラだと、公共交通が利用の形態、ニーズに合わなくなってきている」

多様化する移動のニーズに公共交通が追いついていない背景も。
ライドシェアは、タクシーやバスが手薄な時間帯を補う一つの手段として、また、ドライバー不足解消の手段として期待されているといいます。

しかし、ライドシェア導入には、都市部と地方での移動パターンの違いにも目を向けるべきと指摘します。

桃山学院大学 西藤真一 教授
「典型的な地方に住んでいると、朝のラッシュは、もう本当にもう大混雑。同じ方向に向かって一方通行みたいな感じですね。ライドシェア提供者とライドシェア使いたいと思っている人とのタイミングがうまくマッチングするかどうか。ライドシェアが成功するかどうかっていうのは地方に関して言うとよく見極めないといけないなと思います」

実は、鳥取県内では、住民が自らの自家用車を活用している事例があります。
鳥取県智頭町で去年4月から始まった共助交通サービス「のりりん」です。
ドライバーは住民など約30人、シフト制でドライバーには謝礼が支給されています。町内のタクシー業者がすべて撤退したことから始まった取り組みで、観光客など町民以外も利用できるサービスとなっています。

地域の交通を持続可能な形で守ることができるのか。
事業者だけでなく地域総出で考える必要がありそうです。

© 株式会社山陰放送