エフレイ、4月1日開所1年 被災農地再生、有機農業普及へ研究 共同事業体が「半熟堆肥」の効果検証

人工気象器の中で進む研究。異なる肥料を使い、ポットの中で小松菜を育てている

 福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)は4月1日で開所から1年となる。ロボットや農林水産業など重点5分野全てで委託による研究開発が始まった。初年度は27テーマを公募し、計19件の委託契約を締結。「世界に冠たる創造的復興の中核拠点」の実現に向けて最先端の研究を進めると同時に、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で被災した農地の再生、不安定な国際情勢に伴う物価高騰など暮らしを取り巻く課題に密着したテーマにも取り組む。現場を訪ねた。

 福島市の福島大食農管理棟の一室。温度や湿度、光の強弱を設定できる2台の「人工気象器」、小松菜が育つ6センチ四方の農業用ポットがずらりと並ぶ。ポットごとに16パターンに分けて肥料を使用し、成長具合などの違いを調べている。

 アミノ酸や糖などの「低分子有機物」が植物に与える影響を明らかにするのが目的だ。解明できれば有機農業の普及に役立つ。福島大を代表機関に理化学研究所(理研)と京都、東京、北海道、筑波の各大学でつくるコンソーシアム(共同事業体)が昨年12月、エフレイと委託契約を結び、開始した。

 有機農業は現在、硝酸やアンモニアなどの無機物を含む「完熟堆肥」の使用が主流だ。曇りなど天候が悪い時に低分子有機物を含む「半熟堆肥」を使うと、成長に不可欠な炭素を作物が根から吸収し、安定生産につながるとの仮説がある。ただ、方法を間違えると生育を阻害する懸念があり、科学的な根拠を明確にするのが求められている。

 代表を務める福島大食農学類の二瓶直登教授は「炭素は光合成に伴い葉から吸収される。根からも吸収していると明らかにし、その量が分かれば大きな発見になる」と意義を強調する。人工気象器を用いた研究は浜通りのほ場での実証に向けた予備試験に位置付けている。2台の機器で光の強さなどを変え、仮説の証明を進めている。

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 研究開始の背景には原発事故で汚染された農地の再生がある。被災農地は養分を含んだ表土が除染で剥ぎ取られ、地力が低下している。営農再開が進む中、土づくりは大きな課題だ。二瓶教授は「浜通りの農業を復興させたいとの思いが一番にある」と話す。

 良質な土づくりは被災地だけの課題ではない。国連食糧農業機関(FAO)の調査によると、化成肥料への依存が高まり世界の約3割の土壌は劣化が進んでいるとされる。化成肥料を輸入に頼る日本では不安定な国際情勢による価格高騰が農家に重くのしかかり、国は化成肥料だけに頼らない有機農業の拡大を掲げる。

 堆肥の新たな効果が明らかになれば、収量増につながる化成肥料と適正な量で組み合わせ、環境保全型農業の推進が期待される。

 福島大では学生も研究に関わる。世界最先端の成果を生み出すための若い芽が県内で育ち始めている。

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