被爆前の日常をデジタル化 長崎大レクナの林田特任研究員 写真活用、深まる学び

写真を使った被爆者へのインタビューなどについて語る林田さん=長崎市文教町、長崎大核兵器廃絶研究センター

 長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA=レクナ)が2021年度から3カ年計画で取り組んだ「『被爆の実相の伝承』のオンライン化・デジタル化事業」。林田光弘特任研究員(31)は成果を振り返り「被爆前に焦点を当てる重要性を再認識し、多くの人に知らせるきっかけにもなった」と語る。
 同事業は被爆体験を国内外、次世代に伝えようと、レクナが国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館から受託した。
 被爆前の人々の暮らしに焦点を当て、新たな視点で核兵器の非人道性を訴えるホームページ(HP)「被爆前の日常アーカイブ」を昨年3月に公開。収集した写真や、写真と証言を組み合わせた教材、動画、被爆前後の市街地の航空写真を閲覧できる「航空写真デジタルマップ」を集約した。
 事業が始まった21年度はコロナ禍で、祈念館などを訪れる人が減り、被爆者講話ができないなど継承の課題が表面化。学校現場でデジタル化が進み、それに合わせた平和学習用資料のニーズが高まっていた。
 「被爆者にも名前があり、好きな人がいたり将来の夢があったと気付いてほしい」。林田さんは、被爆者がいなくなった時代の継承を考え、被爆前かつ日常に焦点を当てることにした。
 集まった写真は6千枚以上。新婚旅行やおしゃれを楽しむ姿など、想像以上に現代と近い風景があった。「戦時中を今と全く違う時代だと切り捨てていた」と気付いた。
 教材作りでは写真を使って被爆者にインタビューした。「『この時、弟の鼻水が止まんなくてさ』なんて、被爆証言を聞くだけでは絶対に出ない。写真を一緒に見たからこそ当時のシーンを聞くことができた」。写真の力を実感し、描写を細かく聞き取るよう意識した。
 本年度は小学校から大学までの授業やマップを使ったフィールドワークに取り組み、「学びを深める教材として非常に優れている」と手応えを感じた。日常の延長線上に戦争があったこと、戦争に近づいていく時代の変化などを若者は敏感に感じ取る様子が分かった。ある小学校の教師は「これなら私も教えられるかも」、児童は「当時を身近に感じた」などと感想を口にした。
 3月末、英語版など新たなコンテンツが追加される予定。林田さんは「コンテンツをぜひ学校現場で使う資料や教材にしてほしい。子どもの写真が多いので同世代に見て考えてほしい」と語った。

© 株式会社長崎新聞社