被災地沸かせた快進撃 大の里「頑張り届いた」

  ●Vならず「悔しさ勝る」

 初土俵から6場所、石川が生んだざんばら髪の23歳が最後まで優勝争いを演じる快進撃を見せ、能登半島地震の被災地を元気づけた。24日、千秋楽を迎えた大相撲春場所。「頑張っている姿を届けられていたなら良かった」。2月に被災地を訪問し、ふるさとへの思いを強くして、15日間土俵に上がった大の里。賜杯には一歩届かなかったが、初々しくも堂々と闘う姿に、会場からも、地元からも惜しみない拍手が送られた。(東京支社・森角太地)

 「おおのさとー」「能登半島を元気にして」。大の里が土俵に立つと、場内からひときわ大きな歓声が飛んだ。この日、急きょ石川から駆け付けた父中村知幸さん(48)、母朋子さん(48)、妹の葵さん(19)は誇らしそうに息子、兄の背中を見詰めていた。知幸さんは「被災地の人たちにも喜んでもらえる相撲を取ってくれ」と願った。

 尊富士(たけるふじ)が新入幕優勝を決め、初Vの芽が消えると、「肩の力が抜けた」という大の里。それでも、気持ちを立て直して土俵に向かい、大関豊昇龍に右をねじ込み、ぐいぐいと前進。土俵際まで押し込んだものの、逆転のすくい投げに屈した。「相手の方が上だった」と振り返った。

  ●尊富士戦後、父から激励

 新入幕だった先場所から番付を一気に10枚上げて臨んだ今場所。難敵との対戦が増えても、攻めの姿勢を貫き、白星を重ねた。今場所唯一、消極的な相撲となったのが、10日目の尊富士戦だった。「一番駄目な負け」と悔やむ。

 翌朝、大の里のスマートフォンに一通のメッセージが届いた。「最低を最高に変えろ」。場所中はあまり連絡を取らない父からだった。大の里は「落ち込んだことを察して連絡をくれたんだと思う。心に響いた」と語り、気持ちを切り替えるきっかけになった。翌11日目は貴景勝を圧倒、負けを引きずらずに初の大関撃破を果たした。

 先場所は三役以上の3人と対戦して全敗だったが、今場所は6人と対戦し、4勝2敗と勝ち越し。上位陣とも渡り合えることを証明した。その結果が敢闘賞と技能賞だ。特に技能賞は馬力が評価されての受賞で、大の里自身も「ないと思っていた」と驚いたという。

 佐渡ケ嶽審判部長(元関脇琴ノ若)は大の里と尊富士の活躍に「若さと勢いは怖いね。他の力士も刺激を受けて奮起してほしい」と期待を込める。

 ただ、場所を終えた大の里の表情は晴れなかった。目の前で1歳上の尊富士が賜杯を抱いたからだ。「先場所は三賞がうれしいとか、2桁勝ちたいとか思っていた。今場所は全然違う。うれしさより、悔しさが勝っている」。「優勝」の二文字がはっきりと目標に変わった。

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